読書が苦手な私が読んだ本

私は読書が苦手です。そんな私でも読めた本をご紹介します。実際に本を読んでもらいたいのでネタバレはしないように心掛けています。このブログを読んで「読んでみよう」と思う人が1人でも増えたら嬉しいです。

東野圭吾 文庫「希望の糸」感想

『希望の糸』

著者  ;東野圭吾

発行日 ;2022年7月15日 第1刷発行

     2023年3月15日 第9刷発行

ページ数;464ページ

読了日 ;2023年7月26日

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【評価】

● 文字数  ★★☆☆☆

● 読みやすさ★★★★★

● スリルさ ★★★★

● 恋愛要素 ☆☆☆☆☆

● スピード感★★★★

【あらすじ】  ※ネタバレなし

自由が丘の喫茶店で1人の女性が殺害されました。被害者の名前は花塚弥生。年齢は51歳。そして、この事件の捜査を担当しているのが警視庁捜査一課の松宮修平。犯人を探すべく被害者に関わりのある人物に聞き込み調査を行いますが、全員が口を揃えて「あんな良い人はいない。殺されたなんて信じられない」と言います。花塚弥生には離婚歴があり、殺させる直前に元夫(綿貫哲彦)と会っていたことを突き止めます。また、最近、花塚弥生と親しい間柄と噂されている男性(汐見行伸)の存在も突き止めます。2人にも事情聴取をしましたが、手がかりになる供述を得る事ができません。

そんな頃、松宮の元に一本の連絡が入ります。連絡してきたのは石川県金沢市で旅館の女将をしている芳原亜矢子。亜矢子は「私の父は、あなたのお父さんかもれない」と突然告げます。2人に面識はありません。告げられた松宮は事情が全くわからず驚きます。末期癌で危篤の亜矢子の父の遺言書に「松宮修平が自分の息子であることを認知する」という内容が書かれていたのです。

一方、殺人事件の捜査では、1人の少女の存在が明らかになります。汐見行伸の中学生の娘(萌奈)です。実は汐見行伸には震災の犠牲になった娘と息子がいました。悲しみを忘れるために授かったのが人工授精で生まれた萌奈です。その後、萌奈を中心に事件の真相が明らかになっていきます。

 果たして花塚弥生を殺した犯人は誰なのか

 なぜ花塚弥生は殺されなければならなかったのか

 父と名乗る男性は本当に松宮修平の父親なのか

 その父親の意図することはなにか

 『希望の糸』とはどう意味なのか

読めば全てがわかります。

【感想】

一言で表すなら「切ない」です。殺人事件について、誰が悪いというわけではない(実際にはいますが…)のに、登場人物全員が不幸になってしまうという負の連鎖が止まりません。

「あの時こうだったら…」

「あの時こうしていれば…」

「あの時知っていれば…」

と頭に思い浮かべながら読み進めました。最後まで悲しい気持ちが消えない作品です。

東野圭吾氏の作品でよくありますが、途中まで別々に進んでいるストーリーの接点が全く見えません。ただ、ある時交わります。その交わりを感じた時の爽快感はたまりませんね。モヤモヤが一気に晴れます。

さて、タイトルの『希望の糸』が意味するところはなんだと思いますか?本作では、希望の糸がつながっていた人、つながっていなかった人、それぞれが存在します。つながっていた人は幸福感を感じ、つながっていなかった人は不幸を味わいます。でも、その違いはちょっとしたことです。あの時の行動や決断如何によって幸福感を味わえる人と不幸を味わう人に分かれます。読後感として、全体的な気持ちは「切ない」のですが、人生の永遠の課題(運命・運勢とは何か?)を考えさせられる作品かと思います。是非、読んでみてください。

清水カルマ「禁じられた遊び」小説 感想

禁じられた遊び

著者  ;清水カルマ

発行日 ;2019年6月15日 第1刷

     2023年4月15日 第11刷

ページ数;396ページ

読了日;2023年7月17日

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【評価】

● 文字数  ★★☆☆☆

● 読みやすさ★★★★

● スリルさ ★★★★★

● 恋愛要素 ☆☆☆☆☆

● スピード感★★★★★

【あらすじ】  ※ネタバレなし

平和に暮らしている伊原家。主人の直人、妻の美雪、5歳の息子春翔、そして柴犬のポチ。直人は通勤に時間がかかるのを嫌がっていましたが、意を決して、広い庭と自然に囲まれた郊外に一戸建ての家を購入しました。ある日、晴翔がトカゲの尻尾を拾ってきます。初めて見るトカゲの尻尾。切れているのに動いていることが不思議な晴翔。ちょっとしたいたずら心で直人は「その尻尾を土に埋め、水をかけて呪文を唱えると体が生えてくるんだよ」と春翔に言ってしまいます。それを信じた晴翔はその日から毎日水をやり呪文を唱えます。当たり前ですが、尻尾から体が生えてくる訳がありません。しかし、直人は春翔を驚かせようと別のトカゲを捕まえてきて土に埋め、晴翔に掘り起こさせます。春翔には本当に尻尾から体が生えてきたように感じ喜んでいました。そんな平和な日々が続いていましたが、ある日、美雪が交通事故で亡くなってしまうという不幸が伊原家を襲います。突然の出来事に意気消沈してしまう直人ですが、春翔が何かを握っていることに気づきます。それは亡くなった美雪の指でした。ママが亡くなったことを理解できていない春翔は、トカゲのようにママを復活させるために指を土に埋めて水をかけ呪文を唱え続けます。直人は春翔の行動を止めません。

一方、身の回りに奇怪な出来事が起きている人物がいます。倉沢比呂子。かつて直人と同じ会社で働いていて直人の部下でした。2人はお互いに好意を持つ関係ではありましたが、一線は越えずに不倫関係ではありませんでした、ですが、勘の鋭い美雪は2人を怪しんでいました。昔から不思議な力を持っていた美雪は比呂子に憎悪の念を抱いていました。美雪が生きていた時から比呂子の周りでは奇怪な出来事が多発しています。そして、亡くなってからはそれがさらにエスカレートし、比呂子に関係する人が殺されたり、怪我をしたり、比呂子自身も殺されかけます。果たして美雪は呪文によって本当に生き返ったのか?比呂子はこの呪いの呪縛から解放されるのか?直人の冗談から始まったある種の“遊び“が引き起こす恐怖。衝撃の結末が待っています。

【感想】

完全なホラーです。タイトルから平和なストーリーではないと思っていましたが、ここまでリアルにスリルあふれる表現で描くことできるのかというくらい衝撃的な内容でした。非現実的ではありますが、頭の中では鮮明に映像化されるので怖さは倍増です。しかし、次の展開が気になるので途中で止めることはできないくらい引き込まれていきました。きっと最後はハッピーエンドなんだろうと思っていましたが、その期待も見事に裏切ってくれます。正直言って、スッキリとしない読後感です。どんよりした気分になりたい方にはオススメの1冊です。

今年の9月に橋本環奈さん、重岡大毅さんによって映画化されるようです。このホラーをどうやって表現するのか楽しみではありますが、ホラーが苦手な私は映画は遠慮したいと思います。

浅倉秋成「六人の嘘つきな大学生」あらすじ&感想レビュー

『六人の嘘つきな大学生』

著者  ;浅倉秋成

発行日 ;2023年6月25日 初版発行

ページ数;349ページ

読了日 ;2023年7月6日

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【評価】

● 文字数  ★★☆☆☆

● 状況説明量★★☆☆☆

● 読みやすさ★★★★★

● スリルさ ★★★★

● 恋愛要素 ☆☆☆☆☆

● スピード感★★★☆☆

【あらすじ】

2011年、大学4年生六人がIT企業大手の株式会社スピラリンクスの採用試験の最終選考に残りました。最終選考の方法は1ヶ月後に予定されているグループディスカッション。

人事部長からは

議題は弊社が実際に抱えている案件と似たものを提示し、それを皆さんならどのように進めていくのか議論ーーーーーーというようなものにする予定です。

ディスカッションの出来によっては、六人全員に内定を出す可能性も十分にあります。

と伝えられます。

六人は全員が内定をもらえるように、1ヶ月間、勉強会や飲み会など事前の準備とお互いの人間性の理解、そして信頼関係を築き上げていきます。

しかし、最終選考直前になって人事部長から

(中略)今年度の採用枠は「一つ」にすべきという判断が下りました。これに伴い、当日のグループディスカッションの議題は「六人の中で誰が最も内定に相応しいか」を議論して頂く、というものに変更させて頂きます。そして議論の中で選出された一名に、当社としても正式に内容を出したいと考えています。

と突然の変更連絡が来ます。1ヶ月間、全員で内定を勝ち取るつもりで頑張ってきた仲間が急遽ライバルに変わってしまいます。

そして、最終選考当日を迎えます。制限時間は2時間半。人事担当者は一切介入せず、この六人だけで誰が相応しいかを決めていきます。すでにお互いの人間性や信頼関係が出来上がっているので最初は当たり障りのない議論からスタートします。ただ、30分ほど過ぎたあたりである封筒が置かれていることに気づきます。六人それぞれに宛てた封筒です。その封筒には各人の知られざる過去の悪行が記録されたデータが入っています。一人が開封することでその人の見えていなかった人間性が垣間見え、内定には相応しくないという印象を他の五人に与えてしまいます。他の封筒も開封するべだと主張する人と開封すべきでないと主張する人との議論がぶつかり合います。犯人は六人の中にいます。誰かが嘘の証言をしています。犯人は内定を勝ち取りたいのか、それとも別の目的を達成したいのか。。。。

【感想】

本作は2部構成になっています。第1部では、最終選考に残った六人がグループディスカッションによって内定に誰が相応しいかが決まるまでを描いています。第2部では、そこから8年後が描かれています。

最終選考の方法が変わることは現実的に、また道徳的にはあり得ないことではありますが、このやり方は採用試験の本質をついていると感心する部分でもあります。私自身も面接官を経験したことはありますが、短い時間でその人の本質を見抜くことはほぼ不可能だと感じていました。面接される側は自己アピールのために大なり小なり嘘をついていると思いますし、面接する企業側も自社のマイナスポイントを積極的にいうことありません。つまり、お互いが仮面を被った状態で面接をしているということです。なので、その人が本当に優秀な人材なのか、その人が当社に本当に相応しい人材なのかということなどわかるはずがないんです。その課題を解決する手法して本作で取り上げられている方法はアリだなと思いました。もちろん私は絶対に経験したくはないですが・・・。

さて、実際のグループディスカッションでは、思いのよらない展開が待っています。誰か(犯人)が用意した封筒にはひとりひとりの知られたくない過去が入っています。それを暴くことで知らなかったその人の本質も見えてきます。それをきっかけに六人の人間性と内定を勝ち取りたいという野心とが交錯し、築き上げてきた信頼関係が崩壊していきます。その様は見応えがあります。最終的には犯人は確定し、内定に相応しい人物も確定し、第1部は終了します。

第2部はそこから8年後です。語り手は内定者です。ふとしたことから8年前のグループディスカションの真相を知りたくなった内定者。当時の参加者に8年ぶりに再会し、採取選考日当日の様子をヒアリングしていきます。ネタバレになってしまうので詳細は書けませんが、内定者はあることがずっと気になっていました。第2部ではその気になっていたことを最終的に解明していきます。

本作のテーマは「人間の本質」ではないでしょうか。結局のところ、人の本質や資質を全て理解することはできません。よく知っている人でさえも見えている部分はその人の本質の一部でしかないということを語っているんだと思います。我々が見ている月は常に片面しか見られなく、裏側がどうなっているのかはわからないのに月というものを全て知った気になっている、ということを語っている部分があります。まさに人間も同じですね。私たちはその人の一部でもってその人のことを全て知った気になってしまいます。だから、「こんな人だとは思わなかった」と落胆することもありますし、「こんな一面もあるんだ」だと感心することもあるんだと思います。

ミステリーとしての面白さだけではない深い人間の本質をついた面白さと気づきを与えてくれる1冊でした。是非、読んでみてください。

伊坂幸太郎「シーソーモンスター」あらすじ&感想

「シーソーモンスター」

 著者  ;伊坂幸太郎

 発行日 ;2022年10月25日 初版発行

 ページ数;457ページ

 読了日 ;2023年6月28日

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【解説】

共通ルールを決めて、原始から未来までの歴史物語をみんなで一斉に書きませんか?

本著は“螺旋プロジェクト“の中の1冊です。“螺旋プロジェクト“とは、伊坂幸太郎氏の呼びかけで始まった8人の作家による競作企画です。

共通ルールは

 ①「海族」vs.「山族」の対立を描く

 ②  共通のキャラクターを登場させる

 ③  共通シーンや象徴モチーフを出す

このルールに則って、8人の作家が作品を書き上げています。

1)大森兄弟「ウナノハテノガタ」/原始

2)澤田瞳子「月人壮士」/古代

3)天野純希「もののふの国」/中世.近世

4)薬丸岳「蒼色の大地」/明治

5)乾ルカ「コイコワレ」/昭和初期

6)伊坂幸太郎「シーソーモンスター」/昭和後期

7)朝井リョウ「死にがいを求めて生きているの」/平成

8)伊坂幸太郎「スピンモンスター」/近未来

9)吉田篤弘「天使も怪物も眠る夜」/未来

今回は、伊坂幸太郎の「シーソーモンスター」と「スピンモンスター」を読みました。

1冊に2つの物語が盛り込まれています。

【評価】

● 文字数  ★★☆☆☆

● 状況説明量☆☆☆☆

● 読みやすさ★★★★★

● スリルさ ★★★★

● 恋愛要素 ☆☆☆☆☆

● スピード感★★☆☆☆

【あらすじ】

時代設定は昭和後期。北山家は直人、宮子夫婦と直人の母セツの3人で暮らしています。直人は製薬会社で働く営業マンです。一見平凡な家庭に見えますが、よくありがちな嫁姑問題が勃発しています。宮子は専業主婦。宮子のする家事にいちいちケチをつける姑のセツ。そんな日々が続きますが、実は宮子は以前は情報員、つまりスパイとして諜報活動をしていた人間でした。すでに情報員は引退していますが、あらゆる訓練を受けているため、肉体的にも精神的にも非常にタフです。なので、セツのいびりにも耐えられるのです。全く相性の合わない2人。「それは実は先祖から伝わる因縁です」と突然現れた保険員から訳のわからないことを伝えられます。どういうことなのでしょうか?実はセツにも秘密がありました。まさに「海族」と「山族」の戦いです。果たしてセツの秘密とはなんでしょうか?この物語の戦いとはなんでしょうか?

【感想】

冒頭、直人の仕事内容や先輩とのやり取り、仕事の悩みなどが細かく描写されているので、直人を中心に進んでいくストーリーなのかと思いきや、実は宮子を中心に物語は進んでいきます。宮子が昔、スパイだったという突拍子もない設定ではありますが、スパイという非現実的、日常生活を送っていると接触することがない世界と嫁姑という比較的わかりやすく世界をうまく融合して描いている部分が面白ポイントです。螺旋プロジェクトでは、「海族」と「山族」の対決や共通のキャラクターの登場などのルールがありますが、螺旋プロジェクト作品の1冊目がこのシーソーモンスターだったので、最初はどう言うことなのかを理解できずに読み終えてしまいました。ですが、次に続く「スピンモンスター」を読むと「あ、そういうことなのね」と合点がいく部分が多くなってきますし、この2つの物語はしっかりと関連しています。文章自体は読みやすく、状況設定も想像しやすいので、まずは最後まで一気に読んでしまうことをオススメします。

スピンモンスターの時代設定は近未来です。2050年頃を描いています。全てがデジタル化され、全てがデジタルで監視されている世の中で、アナログの手紙の配達員をしている青年が主人公です。2050年は今から約30年後です。本当に30年後にこんなことができるようになっているか?であったり、きっと30年後はこんな感じなんだろうなぁと思う部分もたくさんあり、想像しながら読むと楽しいと思います。もちろん螺旋プロジェクトのルールも守られています。先述しましたが、シーソーモンスターとの繋がりはあります。どのような関わり方をするのかを是非楽しんでください。

朝井リョウ「正欲」あらすじ&感想

「正欲」

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著者  ;朝井リョウ

発行日 ;2023年6月1日

ページ数;498ページ

読了日 ;2023年6月18日

【評価】

● 文字数  ★★☆☆☆

● 状況説明量☆☆☆☆

● 読みやすさ★★★★★

● スリルさ ★★☆☆☆

● 恋愛要素 ★★☆☆☆

● スピード感★★☆☆☆

【あらすじ】

主に3人の登場人物の生活を中心に物語は進んでいきます。

1人目は不登校の小学生の息子をもつ検事寺井啓喜。2人目はショッピングモールの寝具店で働くOL桐生夏月。3人目は金沢八景大学に通う女子大生の神戸八重子。

寺井は不登校になってしまった小学生の息子の対処に悩んでいます。そんな息子がイベントで知り合った不登校の小学生と共にYouTubeを始めることになります。

ぼくたちはひとりひとり違うのに、同じ格好で同じ授業!バカみたい!

学校ってもう古くないですか?自分が興味あることを勉強した方が絶対にいい!

ぼくから見れば、みんな洗脳さているみたい。学校の勉強、社会出て、役に立つの?

この言葉が息子をYouTubeの世界に引き込んでいきますが、YouTubeを始めた息子は不登校で引きこもっていた時が嘘のようにイキイキとしてきます。妻の由美はそれが嬉しく、学校に行くことが全てではないと感じ始めます。しかし、普段、犯罪者(通常のルールから外れた人間)を相手に仕事をしている啓喜には受け入れ難いことです。自分の接している世界(=価値観)が正しいのか、妻や息子が主張する世界が正しいのかわからなくなってしまいます。

桐生夏月は人には打ち明けられない“欲“を持っています。それを悟られないように日々過ごしていますが、職場では自身のプライベートにズケズケと踏み込んでくる同僚に嫌気が刺しています。そんな時、中学校の同級生同士の結婚式兼同窓会で佐々木佳道に再会します。彼も夏月と同じ悩みを持っています。そんな2人が悩みを共有して行動生活(結婚)を始めていき、自身の“欲“を満たして行きます。

神部八重子は学園祭の実行委員として活躍しています。毎年恒例のミス・ミスターコンテストを廃止し、新たなに「ダイバーシティーフェス」を企画。大学内外の人たちを巻き込みながら“繋がり“をテーマにしたダイバーシティーフェスは大成功。自身も性についての悩み(男性の視線に耐えられない)を抱えている八重子ですが、ダンスサークルに所属している大橋大也に好意を持ちます。なぜか彼からの視線は大丈夫なのです。そんな彼も実は“欲“に対して悩みを抱えています。自分と同じような悩みを抱えている信じていた八重子は大也と積極的に関わろうとし、彼の悩みを一緒に解決しようと画策します。しかし、彼の悩みは違います。それなのにちょっかいを出してくる八重子に嫌気が刺してきます。

一見何の接点もないように見える3つのシチュエーションですが、ある共通の“欲“で繋がっていることが後々わかってきます。

その“欲“とはなんなのか?各人が抱えている悩みはちゃんと解決するのか?自分が想像できる多様性だけが正しいのか?最後まで目が離せません。

【感想】

一般的に「正しい」とか「間違っている」と認識されていることが本当にそうなのだろうか。それも誰かの主観で決められただけで、本当の「正しい」とは何なのだろうか?そんな疑問を投げかけてくれる1冊です。テーマは“多様性“です。まさに現代社会で話題になっているテーマです。登場人物の“欲“は一般的にはなかなか理解が難しい“欲“です。でも、これを受容するのも多様性なんだと気付かされます。「多様性」「ダイバーシティー」を頭では理解しているつもりでも、それは自分の経験や想像の範囲内でしかないとつくづく感じます。きっと私たちは世の中のことをほとんど知らないんです。その考えを前提にして生活をし、多種多様な人とコミュニケーションを取らないと多様性は理解できないんだろうと感じます。

本著は巧みな構成で描かれています。主に3つのシチュエーションで物語は進んでいきます。最初のうちはこの3つのシチュエーションがどのように絡み合っていくのかを不思議に思うのと同時に楽しみにしながら読み進めていきました。特に面白かったのは途中から登場する人物が、実は重要人物だということです。彼らの“欲“をどれだけ理解できるか、このような“欲“を持っている人が世の中にはいるんだということを知ること、それを共有できる“繋がり“を持った人同士の生き方や考え方を受け入れること、それが多様性を受容することなんだと感じます。

昨今、国会ではLGBT法が制定されました。でも、これも実は政治家の皆さんの常識の範囲や経験の範囲内でしか議論されず、決められた法律かもしれません。異論を唱えている当事者や関係者がいますもんね。自分の尺度だけで物事を考えたり、他人に押し付けたりせず、人は多種多様な価値観を持っていることを意識をすることが大切だと、この本を読んで感じました。多様性が叫ばれるこれからの世の中を生きていく上で、考えるきっかけをくれた本です。是非、読んでみてください。

藤崎翔「逆転美人」あらすじ&感想

藤崎翔「逆転美人」

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著者  ;藤崎翔

発行日 ;2022年10月16日(第1刷発行)

     2023年2月27日(第7刷発行)

ページ数;350ページ

読了日 ;2023年6月4日

【評価】

● 文字数  ★★★☆☆

● 状況説明量☆☆☆☆

● 読みやすさ★★★★

● スリルさ ★★★★★

● スピード感★★★★

【あらすじ】

少し細かく書いていますが、ネタバレはしていないのでご安心ください。

美人に生まれてしまったから味わう不幸。主人公の佐藤香織は幼少期より外見が恵まれていました。小さい時からたくさんの人に「かわいいね」「美人だね」と言われ続けてきました。一般論では、恵まれた人生を送っていそうですが、香織の場合は違いました。幼少期や小学生の低学年の時は何回も誘拐未遂の経験を味わい、高学年では告白された男子からの交際を断ったことで、その男子のことが好きだった親友から嫌われ、中学生では男子からチヤホヤされる香織への妬みから激しいイジメにあい、行き過ぎたイジメにより小指を骨折させらることもありました。結果、不登校となってしました。何とか高校に行くことはできましたが、そこでも同じようなことが起きます。しかし、中学校の時と違うのは、気にかけてくれる先生がいました。いつしかその先生と禁断の恋仲となりましたが、その先生も香織が美人だったから近寄ってきたに過ぎなかったのです。結局、その先生に裏切られ学校に居づらくなってしまい中退。その後、コンビニでのバイトを始めます。ルックスの良さから香織目当ての客が増えて売上も上昇。バイト仲間にも恵まれていましたが、客のひとりが香織を自社の秘書にしたいとヘッドハンティングします。高待遇であり、家庭の事情でお金に困っていた香織は転職を決断。しかし、その会社でもまた香織のルックスが不幸をもたらします。秘書とは名ばかりで社長の愛人になることが条件だったのです。すぐにその会社を辞め、元のコンビニに再度働けるようにお願いに行きましたが、事はそう簡単ではありません。詳細は割愛しますが、そこでも香織のルックスが関係しています。その後、キャバクラで働き始めます。その美貌からすぐにNo. 1に上り詰めますが、学の無さから詐欺にあい、キャバクラも辞めてしまいます。その後、ある男性と知り合い結婚、出産を経験して今までの不幸が嘘のような生活が続きます、しかしそれも長続きはしません。旦那の死亡、父の死亡、娘の下半身麻痺による車椅子生活、そして娘の勉強のお世話をしてくれた高校の先生からの強姦未遂などなど。。。その原因のほとんどが香織の美貌によるものでした。彼女は美人に生まれてきたことを恨んでいます。世の中のルッキズムを憎んでいます。

そんな彼女の半生が手記という形式で描かれて本編は終了します。本編は240ページほどで終了し、残りの110ページほどは「追記」が書かれています。その「追記」でこの本編の真の狙いが綴られています。なぜ、香織はこの不幸な生い立ちを手記として語ろうとしたのか。この本編で本当に伝えたかったこととは何なのか?びっくりするトリックが仕込まれています。

【感想】

まずはタイトル「逆転美人」に惹かれて購入しました。そして、帯に書かれている「伝説級トリック!」。このワードにも興味を持ちました。

あらすじでも書きましたが、主人公香織が自身の半生を手記で綴っています。美人であるが故の苦悩と苦労、そして不幸が「まだ起きるの?」と思わず口にしてしまうくらい繰り返されます。読むのもしんどいくらいの不幸エピソードが続いていましたが、私の中では「伝説級トリック」が常に気になっていたので、これからどんな展開が待ち構えていて、どんなトリックが仕込まれているんだとワクワクしながら読み進めていきました。真相は「追記」を読めばわかりますが、本編でもところどころにヒントが書かれています。それを見抜ける人は果たしてどれだけいるでしょうか?私は当然ながら見抜けませんでした。

ジャンルとしては推理小説かと思いますが、普通の推理小説とは全く違うテイストの小説でした。少なくとも私はこのスタイルの推理小説には出会ったことがありません。なので、最初は全体像を理解するのに少し時間がかかりましたが、状況が把握できるとこのトリックの凄さに圧倒されました。不幸エピソードに少し気が滅入る部分もありますが、最後まで読み切った後の爽快感は格別です。是非、読んでみてください。

池上彰最新本『池上彰の「世界そこからですか⁉️」感想

池上彰の「世界そこからですか⁉️」

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  • 著者  ;池上彰
  • 発行日 ;2023年5月30日 第1刷発行
  • ページ数;270ページ
  • 読了日 ;2023年5月31日

久しぶりに小説ではない本を読みました。

私は池上彰さんのわかりやすい解説が好きなので、本屋で新刊が出ているのを見つけるとついつい購入してしまいます。

この本は、タイトルからもわかるように、日々、見聞きするニュースの意味や背景について、基礎から解説してくれています。

読んでいる人が「そこから解説するのか」と驚くほど基礎から始めましょう

と池上さん自身も書いています。

全部で6章から成る構成です。

  1. ウクライナ侵攻後の世界」そこからですか⁉️
  2. 「"不思議の国"アメリカ」そこからですか⁉️
  3. 習近平の中国」そこからですか⁉️
  4. 「岐路に立つイギリスとドイツ」そこからですか⁉️
  5. イスラエルと中東の火種」そこからですか⁉️
  6. 「日本政治と経済の今」そこからですか⁉️

2023年5月30日発刊なので旬な話題と直近の情報が非常に多いです。なので、今ニュースなどで報じられている事案についての理解度を深めるにはもってこいの1冊です。

特にロシアのウクライナ侵攻について、ロシア側(プーチン大統領)がなぜ侵攻しているのかという理由を地政学の観点から解説をしています。「なるほど」と思う部分がある一方で、その理屈は独りよがりの理屈で、共感を得られな理屈であるということもわかると思います。

その他に、アメリカ、中国、イギリス、ドイツ、イスラエル、そして日本、現在、世界中で起きているさまざまな事案について、基礎からわかりやすく解説してくれています。さすがは池上彰さんです。

各章の間に特別対談が3つあります。

🔸特別対談①

    小泉悠(軍事アナリスト

     「プーチンの戦争はいつまで続く」

🔸特別対談②

    マイケル・サンデルハーバード大学教授)

     「能力主義が世界を分断させた」

🔸特別対談③

    柄谷行人(哲学者)

     「世界は『交換』でわかる」

私が興味深く読んだのは、

🔸特別対談②

    マイケル・サンデルハーバード大学教授)

     「能力主義が世界を分断させた」

です。

サンデル氏の著書「能力の独裁(原著タイトルの直訳)」をもとに対談をしています。

その対談の中で出てきた文章をいくつかご紹介します。

平等な社会を作る条件だと考えられている「能力主義」が実は格差を生み、エリートを傲慢にさせ、社会に分断をもたらしている

ハーバードやスタンフォードといった有名大学の三分の二が、上位20%の富裕層の出身だという調査がある。これは東京大学慶應大学においても同じ。その上アメリカでは、卒業生や大口寄付者の子息を優先的に入学させる制度が、裕福な家庭出身の学生を増やしています。

能力主義的なおごりの最もいら立たしい特徴の一つは、その学歴偏重主義だ

君たちは、自分の努力と実力でいい大学に入ったと思っている。しかし、それは運によるものだ

私が問題にしているのは、自分の成功を実力で勝ち取ったものだと信じきってしまうことです

もうひとつ大きな問題は、いい大学を出ることが、お金儲けや社会的な地位を得るためのツールになっていることです

いかがでしょうか?ゾクゾクする文章じゃないですか?

なぜそうなんだ?と思いながら読み進めることができ、新たな気づきになると思います。気になる方は是非読んでみてください。

もちろん各章の「そこからですか⁉️」も読み応えがあります。ただ、世界情勢や地政学に詳しい人には知っている内容すぎて少し物足りないかもしれません。「今の世界の動きについて、少し知識が乏しくて、今さら他の人には聞けないな」と思っている人にはベストな1冊かと思います。

東野圭吾「ゲームの名は誘拐」感想

ゲームの名は誘拐

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著者  ;東野圭吾

発行日 ;2005年6月20日(初版1刷発行)

     2022年6月10日(45刷発行)

ページ数;332ページ

読了日 ;2023年5月26日

【評価】

● 文字数  ★★☆☆☆

● 読みやすさ★★★★★

● スリスさ ★★★★★

● 恋愛要素 ☆☆☆☆

● スピード感★★★★★

【あらすじ】

仕事においてもプライベートにおいても常勝のエリート広告マン佐久間駿介。クライアントの日星自動車の新車発表キャンペーンの責任者であったが、その計画が突如白紙撤回となってしまいます。その決断をしたのが、最近、日星自動車の副社長に就任した葛城勝俊。葛城自身も今までに負けを経験していません。そんな葛城に対して、負け知らずの佐久間は復讐心を燃やします。その時に出会ったのが葛城の娘樹理。彼女は葛城家からの家出を計画してしました。1人で生活していくために必要なのはお金。葛城勝俊に復讐をしたい佐久間駿介。お金を葛城家から奪いたい娘の樹理。2人の利害が一致し、身代金3億円を要求する狂言誘拐(ゲーム)がスタートします。エリート広告マンの佐久間の計画により身代金受取りまでの計画が次々と実行されていきます。彼の思惑通りに事態が進み、いよいよ身代金を受け取るところまで漕ぎ着けます。果たして無事に身代金を受け取ることができるのか?最終的にゲームに勝つのは誰なのか?「そう来たか!」と驚く展開が待っています。

【感想】

推理小説です。ただ、普通の推理小説とは少し違ったテイストなので非常におもしろく、読み応えのある1冊です。

主役の佐久間駿介は負け知らずの人生を歩んできました。そのためか思考は常にドライで冷血で合理的です。プライベートでも特定の女性と付き合う訳ではなく、同時に複数の女性と関係を持ったり、自分の都合でスパッと切り捨てたり。。。そんな自信に満ち溢れた日常を送っていましたが、突然、クライアントから計画の中止を言い渡されます。納得のいかない佐久間は復讐を決意し、そのために思いついたのが狂言誘拐。それを一種のゲームとして位置づけ、葛城勝俊への復讐を企みます。

この小説の面白い部分は視点が全て犯人側(佐久間側)から描かれている点です。通常、被害者側からの視点で描かれることが多いですが、この小説は犯人がどういった心情と思考で犯罪を完結させようとしているのか、つまり、いかに無事に身代金を受取るかを描いています。被害者家族(葛城勝俊)の思考と動き、警察の動き(発信器、尾行など)を先読みし、それを掻い潜りながら次から次へと犯行を実行していきます。思惑通りに、非常にスムーズに犯行が進んでいきます。いや、スムーズ過ぎるのです。なので「こんなに上手くはいかないでしょ!」という疑問とちょっとした不満を持ちながら読み進めました。それと同時にどういうフィナーレ(誰が勝者か?)を迎えるんだろうというワクワク感も感じながら読んでいきました。

その疑問と不満は途中から一気になくなりました。この誘拐ゲームは単純な狂言誘拐ではなかったのです。これには裏(真)の狙いがあったのです。裏の狙いがあるということと真相を知りたい!という気持ちが読むことをやめさせてくれませんでした。最後は「こういうことだったのか」という納得感と興奮を覚えます。振り返ると登場人物は全員悪者です。善者はひとりもいません。それもこの小説を面白くしている一因かもしれません。

2003年に"g@me."というタイトルで映画化もされています。(アマゾンビデオリンク先;https://amzn.to/4316D9D藤木直人さん主演で仲間由紀恵さんが出演しています。原作が面白かったのでアマゾンビデオで映画も視聴しました。基本的に原作に忠実に描かれていますが、結末が原作とは違います。原作と映画、どちらの結末が好みかは人それぞれだと思います。原作の巻末に藤木直人さんがこの小説と映画についてのコメントが書かれています。それを読んだ後に映画を観るのもオススメです。

是非、小説「ゲームの名は融解」、映画"g@me."の両方を見比べてみてください。

東野圭吾 文庫本「クスノキの番人」あらすじ&感想レビュー

クスノキの番人」

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著者;東野圭吾

発行日;2023年4月15日 初版第1刷発行

    2023年5月12日 初版第3刷発行

ページ数;483ページ

読了日;2023年5月21日

【評価】

● 文字量  ★★★☆☆

● 状況説明量☆☆☆☆

● スリルさ ★★★★

● 恋愛要素 ☆☆☆☆

● スピード感★★★☆☆

【あらすじ】

主人公の直井玲斗は素行の悪さから警察の厄介になってしまいます。起訴が決まりそうになった時、弁護士からある伝言を告げられます。

直井玲斗様へ。もし自由な身になりたいのなら、全てを岩本弁護士に委ねなさい。(中略)無事に釈放された際には、速やかに私のところへ来なさい。あなたに命じたいことがあります。

伝言の主がわからないまま、その伝言を受け入れて玲斗は釈放されます。そして伝言の主を訪れ、ある任務を命じられます。それがクスノキの番人“です。

ある神社に鎮座する巨木クスノキ。そこはパワースポットとして有名な場所で、それ目当てに訪れる参拝客が多くいます。彼の役目はそのクスノキの管理や境内の掃除などです。一見、ただの番人なような気がしますが、実はそのクスノキには秘密があります。参拝する人は昼間だけではありません。夜間に参拝する人もいます。しかも夜の参拝は完全予約制。誰でも予約ができる訳ではなく、特別な思いや事情がある人だけが予約ができクスノキ『祈念』することができます。番人の真の役割は夜間に『祈念』する人の管理とお世話なのです。

玲斗に番人の任を与えたのは誰なのか?

クスノキの番人とは具体的にどんなお仕事なのか?

クスノキへの『祈念』とは何なのか?

なぜ『祈念』するのか?

クスノキから得られるご利益とは何なのか?

【感想】

読むのが止まらなくなるくらい面白い本でした。途中までクスノキの秘密が全くわかりません。なので想像しながら読み進めるのが楽しかったです。非常に夢のある、希望が持てる秘密です。

主人公の直井玲斗は出自の不幸から最初は素行の悪い人間として描かれています。悪さをして警察に捕まったり、言葉遣いもなっていない、意思決定もいい加減、洋服も持っていない、もちろんお金も持っていない、いわゆるクズ人間として登場します。釈放してもらうのに伝言の主にお金を肩代わりしてもらったという恩とどうでもいい人生だからという軽い理由で番人を引き受けます。ただ、クスノキの番人をし、様々な複雑な事情を抱えた人たちとの交流により一人前の人間へと成長をしていきます。番人は『祈念』に来る人への関わりを深く持ってはいけないことになっています。番人を引き受けた当初、クスノキへの思い入れも弱く、クスノキの秘密を知らないということもあり、教え通り深く関わろうとしないのですが、徐々に秘密がわかってきたこととある女性との出会いと恋心により、彼は深く関わっていきます。ここは非常に若者らしくていいですね。

この本は人生に嫌気がさしていたひとりのクズ人間が、あることをきっかけに役割を与えられ、責任感をもつことで成長していく物語です。そしてテーマは家族愛でしょうか。大きく3つの問題に関わっていきますが、どれもパターンの違う家族愛を描いています。伏線もしっかりと回収していますので、読み応え十分な1冊です。是非読んでみてください。

クスノキの秘密がわかるまでの私の気持ちはドキドキ。秘密がわかった後の気持ちは感動による「ジーン」でした。皆さんはどんな気持ちになるでしょうか。

蒴立木 文庫「死亡推定時刻」あらすじ&感想レビュー

書店のミステリーコーナーで平積みされていました。

蒴立木「死亡推定時刻」

ページ数;474ページ

発行日;2006年7月20日(初版1刷発行)

    2023年2月10日(26刷発行)

読了日;2023年5月10日

【評価】

● ページ数 ★★★★

● 文字数  ★★★☆☆

● 状況説明量★★★★

● スリルさ ★★★★★

● 恋愛要素 ☆☆☆☆☆

● スピード感★★★★

【あらすじ】

山梨県である少女が誘拐される事件が発生しました。その少女は地元の有力者の娘。犯人からの要求は身代金1億円。警察との連携により身代金の受渡しの手筈を整えますが、犯人の要求に答えることが出来ずに失敗してしまいます。そしてその後、その少女が遺体で発見をされてしまいます。警察の捜査の上、1人の男性(小林昭二)が逮捕されますが、実は小林は犯人ではありません。そうです、冤罪により逮捕されてしまったのです。警察関係者はその事実を見て見ぬふりをして、小林を問い詰め、嘘の証言をさせ、嘘の証拠作りと嘘の供述調書をを作り上げ、小林を犯人に仕立て上げてしまいます。そして、その嘘の調書をもとに裁判が実行され、まともな審理もされずに結審し、判決はなんと死刑!なぜ警察は小林が殺人を犯していないと分かっていながら、彼を犯人しなくてはいけなかったのか。

死刑判決後、上告され、ある弁護士(川井倫明)が国選弁護士としてその事件を引き継ぎます。彼は第1審の判決や審理に疑問を持ち、小林が冤罪であると確信します、無実の人間を救いたい一心で画策をする弁護士川井。いよいよ、上告審の判決も言い渡されます。小林昭二の無実は証明されるのでしょうか?それとも冤罪を晴らすことはできないのでしょうか?

【感想】

非常に面白く、ドキドキしながら、次の展開を早く知りたいという気持ちが強くなる本でした。本の帯にも書かれているように「冤罪はこうやって作られる」ということをよく理解できるストーリーです。被害者の家族、警察、法医学者、検察、裁判所など登場する各々の利害関係が複雑に絡み合って、この事件の冤罪は作り上げられてしまいました。ポイントは殺された少女の“死亡推定時刻“です。死亡推定時刻が何日の何時になるかが、この小説の一番の肝であり、冤罪工作の始まりと言ってもいいかもしれません。本作は大きく2部構成で書き上げられており、第1部では冤罪が作り上げられて死刑判決が出るまでを描き、第2部では、冤罪を証明するため、無実な人間を救うために奔走する弁護士川井倫明を中心に描かれています。

著者が法曹関係者で専門的知識を持ち合わせているということで、専門的な状況を説明するシーンも比較的多かったですが、深く入り込むようなマニアックな説明ではなく、必要最低限の状況説明に留まっている印象があり、テンポもよく物語が進んでいったので苦なく読むことができました。

『禍福はあざなえる縄の如し』

この言葉が最後に登場します。“人生は禍いも幸福も混ざり合った縄のようなものだ“という意味ですが、この本のテーマである冤罪とはまさにこのようなことだと語っています。

果たして、

冤罪はどのようにして作り上げられしまったのか。

川井倫明は死刑判決を受けた小林昭二を救うことができるのか。

真犯人は誰なのか。

気になる方はぜひ読んで見てください。