読書が苦手な私が読んだ本

私は読書が苦手です。そんな私でも読めた本をご紹介します。実際に本を読んでもらいたいのでネタバレはしないように心掛けています。このブログを読んで「読んでみよう」と思う人が1人でも増えたら嬉しいです。

「ゴリラ裁判の日」須藤古都離著 感想レビュー

須藤古都離「ゴリラ裁判の日」

ページ数;327ページ

発行日;2023年3月13日

読了日;2023年5月4日

【評価】

● ページ数 ★★★☆☆

● 文字数  ★★★☆☆

● 状況説明量☆☆☆☆

● スリルさ ★★★★

● 恋愛要素 ☆☆☆☆☆

● スピード感★★★☆☆

【あらすじ】

アメリカで起きたある裁判のシーンから始まります。夫を射殺されたことに納得と正当性を感じない原告が動物園を相手に裁判を起こしますが結果は敗訴。

その原告が…

なんとメスゴリラ(ローズ)です。ローズは人間とコミュニケーションが取れる不思議なゴリラです。コミュニケーションだけではなく、思考や理解度も成人の人間と遜色ない存在です。

ローズはアフリカで生まれ、動物保護区で生活しています。なぜローズが人間とコミュニケーションが取れるようになったのかが描かれています。ただ、ローズはゴリラです。ゴリラとしての生活やゴリラの生態についての描写もしっかりと描かれています。動物保護区で生活をしていたローズですが、あることをきっかけにアメリカに行くことになります。アメリカでは動物園のゴリラパークで過ごしますが、ある日、ゴリラパークに遊びに来た母子の子供がゴリラパークの柵に中に誤って転落してしまいます。転落後、リーダーであるシルバーバック“オマリ“に捕まってしまった少年。少年の安全を第一に考えた動物園の判断はオマリの射殺でした。射殺されたオマリはローズの夫。人間の思考をもつローズはなぜ夫が射殺されなければいけなかったのか理解と納得ができません。そして、冒頭の裁判のシーンです。敗訴したローズは動物園ではなく、別の道に進みアメリカで生活を始めます。しかし、心の底では敗訴したことに納得ができていないローズ。なぜ夫は殺されなければいけなかったのか。動物の命は人間の命より優先されないのはなぜか。そんな時、再審をする機会を得ます。改めて、無罪を主張する動物園側との裁判がスタートします。どのような結末が待っているのでしょうか???

【感想】

「ゴリラ裁判の日」というタイトルを見た時にどんな話なんだろうと興味を持ちながら読み始めたら、まさかのゴリラが主人公でした!!!しかも人間とコミュニケーションが取れるという突拍子のない設定で、最初は頭の中で「これはどういうことか?」と疑問符が常にある状態でした。ローズは手話を使って人間とコミュニケーションを取ります。特殊なグローブにより音声も発することができるので、手話が理解できない人とも何不自由なく会話ができます。学習意欲の強いローズはテレビや映画なども視聴して人間世界のことを益々理解し、人間的思考も身につけていきます。やっぱり「これはどういうことだ?」と言う疑問符は消えません。

舞台がアメリカに移動し始めた頃から、この本の伝えたいメッセージが朧げなから予測することができるようになってきました。裁判に敗訴したローズが言った「正義は人間に支配されている」。この言葉がこの本のテーマだと思いました。オマリを射殺しなければ、少年がオマリに殺されていたかもしれない。でもオマリには少年を殺す意志はなかった。それでも射殺の判断をし、それが正義として判決が下った。動物の命と人間の命、どちらが大切な命なのでしょうか?命に優先順位をつけるべきではなく、平等であるべきだと言うのがこの本で伝えたいことなのではないでしょうか?ローズが人間と同じ意向と知能を持ち合わせるという少し奇妙な設定にすることで、動物側の主張を上手に描いたと思います。

主は動物の命と人間の命がテーマですが、見方を変えると人間の命と人間の命、すなわち人種別の命と置き換えることもできるのではないかと感じました。今の世の中は、ある人種が正義を支配している世界ではないでしょうか?著者がそこまで意識して執筆したかどうかはわかりませんが、私はそう感じました。

この小説はフィクションですが、人間と手話を通してコミュニケーションがとれたゴリラは実際に存在していたようです。また、ゴリラパークに転落してしまった少年を助けるためにゴリラを射殺したという事件も実際に起こったそうです。その事件で「人権とは何か?」という議論も起こったようです。

突拍子もない設定に最初は戸惑いましたが、非常に奥が深い考えされられる社会派の小説です。ストーリー自体は面白く描かれており、非常に読みやすくなっていますので、是非、読んでみてください。

【アメトーク 読書芸人】綿矢りさ「嫌いなら呼ぶなよ」レビュー

先日のアメトーク“読書芸人“で紹介されていました。

綿矢りさ「嫌いなら呼ぶなよ」

ページ数;207ページ

発行日;2022年7月30日初版

   (2023年4月10日5版発行)

読了日;2023年4月29日

【評価】

●ページ数 ★★☆☆☆

●文字数  ★★☆☆☆

●状況説明量☆☆☆☆

●読みやすさ★★★★★

●スリルさ ★★★☆☆

●恋愛要素 ☆☆☆☆☆

●スピード感★★★☆☆

【あらすじ】

「眼帯のミニーマウス」

「神田タ」

「嫌いなら呼ぶなよ」

「老は害で若も輩」

の4つのストーリーからできている短編集です。

なのでひとつのストーリー自体は短く簡潔です。

それぞれは全く関連しないお話ですが、私なりに考えたこの本のテーマは“本音と建前“でしょうかね。

各ストーリーに出てくる主人公は表面上は“いい子“ぶっているんですが、心の中では180度違うことを考えていて、その心の声を中心に物語が進んでいきます。

「眼帯のミニーマウス」

カワイイが命の主人公はルックスに自信がないのでプチ整形を施していきます。それを会社の同僚からイジられちゃいます。表面上は気にしていない風を装っていますが、心の中ではよく思っていなく、イジってくる同僚への逆襲を画策します。

「神田タ」

主人公はある時、話題のYouTuberの動画を見て徐々にのめり込んでしまい、熱狂的なファンになってしまいます。熱狂的だからこそ徐々に粘着質なファン行動に出ていってしまいます。バイト先で実際に会う機会を得た主人公。行き過ぎた感情により、やってはいけない行動(犯罪?)をしてしまいます。

「嫌いなら呼ぶなよ」

友人の新築祝いパーティーに呼ばれたある夫婦。参加者は主催者夫婦、主人公とその妻、もう一組の夫婦。最初は子供たちも交えた和気あいあいのバーペキューパーティーでしたが、実は真の目的は、主人公の不倫を問い詰めることでした。不倫をされた妻が主催家の親友に相談しており、主人公以外の全員がこのパーティーの目的を知っていました。様々な証拠を突きつけられ追い込まれる主人公。表面的には自分に非があり悪かったとコメントしていますが、実は心の中では全く別な視点でこの状況を捉えており全く反省していません。果たして結末はどうなるんでしょうか?

「老は害で若も輩」

女性作家とフリーライターと編集者のお話です。編集者の企画で女性作家にインタビューをして雑誌に掲載すると言うもの。インタビュアーはフリーライターです。一通りの取材が終了し、締切日も迫り、最終確認の段階で女性作家が難癖をつけてきます。実は9年前にもこの女性作家とフリーライターには同じような出来事があり、再びといった感じで2人のメール上での喧嘩が始まります。最初は傍観していた編集者ですが、2人からも意見を求められメールでコメントをします。そして、そのコメントにも難癖をつけ始める2人。編集者は徐々に建前と本音のバランスが崩れ、お酒の力も加わったせいで最終的にはやってはいけないことをしてしまいました。果たして何をしてしまったのでしょうか?

女性作家の名前が「綿矢りさ」となっているところにユーモアを感じます。本人がそんな人ではないことを祈ります(笑)

【感想】

表現としては今風の書き方なので、ブログやLINE、メールを読んでいる感覚でした。人によっては少し読みにくいなと感じるかもしれません。

各あらすじは上述の通りですが、どれについても人間の本質を面白おかしく描写しています。日常生活でも、他人から認識される表情や言動、発言した内容と本心(内心)で思っていることが違うことは多々ありますよね。

私が一番おもしろいと感じたのは「嫌いなら呼ぶなよ」です。社会常識的、倫理的に圧倒的に悪いのは主人公なのに、その主人公はどこか他人事。今、目の前で起きていることをまるで別室のモニターで客観的に見ていて、今の状況を冷静に分析をしているところを楽しめました。ものすごく神経が図太くないとできない芸当かと思いますが、世の中にはそう言う人はきっといるだろうと感じてしまいました。

“本音と建前“

読むと共感できる部分を見つけることができると思います。

アメトーク読書芸人推薦 小川哲「君のクイズ」感想レビュー

先日のアメトーク「読書芸人」で紹介されていました。

小川哲「君のクイズ」


君のクイズ [ 小川哲 ]

ページ数;189ページ

発行日;2022年10月30日

   (2023年3月10日 第7刷発行)

読了日;2023年4月24日

【評価】

● ページ数 ★★☆☆☆

● 文字数  ★☆☆☆☆

● 状況説明量☆☆☆☆☆

● 読みやすさ★★★★☆

● スリルさ ★★★☆☆

● 恋愛要素 ☆☆☆☆☆

●スピード感★★☆☆☆

【あらすじ】

クイズオタクである主人公三島玲央は、あるクイズ番組のファイナリストとして決勝の舞台に立っていました。このクイズ番組はテレビの生放送でオンエアされています。対戦相手は本庄絆。7○3×で勝負が決します。つまり先に7問正解するか、相手が3問不正解になれば勝てる早押しクイズ対決です。対戦成績は6−6の五分。最後の1問で優勝者が決定する場面です。アナウンサーの「問題ー」という発声の直後、まだ問題文が読まれる前に本庄絆がボタンを押して解答してしまう。(これをクイズ業界では『ゼロ文字押し』と言うらしい) そして、見事に正解!優勝は本庄絆に決定します。

というところから物語がスタートします。

なぜ本庄絆は問題文を聞くことなく解答をできたのだろうか。その謎を三島玲央は解明していきます。

ヤラセだったの…

本庄絆に特殊な能力が備わっているのか…、

ただのまぐれだったのか…

果たして真相はいかに!

【感想】

いきなり問題提起から始まったなという印象です。

“なぜ本庄絆は問題文を聞かずに正解を答えることができたのか?“

この疑問が常に頭から離れない状態で読み進めることになりました。なのでストーリーは非常にシンプルです。謎を解き明かしていく過程も十分におもしろいのですが、私が特におもしろいと感じたポイントは、クイズに解答する、つまり答えを見つけると言うことのメカニズムを非常に論理的に分かりやすく説明してくれているところです。

例えば、問題文には“確定ポイント“と言うポイントがあるそうです。問題文を聞き進めていくことで答えの選択肢が狭まり、一つに絞り込めたところでボタンを押す。そのポイントが“確定ポイント“と言うそうです。そのポイントが早ければ早いほど解答権を得るチャンスが増えます。そのポイントを早くするためにクイズオタクの人たちは日々訓練をしているそうです。言われてみればその通りなんですが、今までそんなことを真剣に考えたことはなかったので、改めて文字でロジカルに説明をされた部分に新たな発見とおもしろ味を感じました。これ以外にもクイズに正解するとはどういったメカニズムなのかを分かりやすく説明してくれています。

“確定ポイント“の理屈からいくと『一文字押し』が最短であることが常識だと思われていましたが、本庄絆は『ゼロ文字押し』をやってみせ、見事に正解してみせたのです。そりゃ驚きますよね。その謎はしっかりと解決してくれますので安心してください。

キーとなる登場人物は3人います。三島玲央と本庄絆、そしてもう1人がクイズ番組の総合演出の坂田泰彦。各人がそれぞれの環境下で違った目的を持ってこのクイズ番組に関わっていたことも判明します。

最後に三島玲央は「ずばり、クイズとは何でしょう?」と言う問題に「クイズとは人生である」と解答しています。その他の2人にとってクイズとは何だったんでしょうか?

ぜひ、読んで確認をしてみてください。

川上未映子「黄色い家」」感想レビュー

書店に行って平積みされていたので購入して読んでみました。

川上未映子「黄色い家」

ページ数;601ページ

発行日;2023年2月25日

読了日;2023年4月21日

【評価】

  • ページ数 ★★★★★
  • 文字数  ★★★★☆
  • 状況説明量★☆☆☆☆
  • 読みやすさ★★★★☆
  • スリルさ ★★☆☆☆
  • 恋愛要素 ☆☆☆☆☆
  • スピード感★★☆☆☆

【あらすじ】

ある女性(吉川黄美子)が20歳の女性を監禁し暴行していた疑いで逮捕されたというネットニュースをある少女(伊藤花)が発見します。

伊藤花は自分が15歳から20歳くらいまでの5年間(20年ほど前)、吉川黄美子とともに生活をしていた経験がありました。全くの音信不通でしたが突然の逮捕ニュースに昔を思い出し、当時、一緒に生活をしていた仲間のもとを訪ねますが、その仲間からは「今更思い出したくもない。私たちがやっていたことはかなりヤバいことだったので関わらないでほしい」と言われて突き放されてしまいます。

20年前のヤバいこととは…。

不思議な縁で集まった3人の少女と1人の女性の奇妙な生活がスタートしました。まともに稼ぐ術を知らない彼女たちは、真っ当ではないやり方でお金を稼いでいきます。万事うまくいっているときは良かったのですが、何かが狂いだすと全てが崩壊へと向かっていきます。

果たして、この奇妙な擬似家族生活はどうなっていくのでしょうか。。。

【感想】

冒頭の黄美子の逮捕から物語がスタートし、逮捕容疑が監禁であるということからただならぬことが始まる予感がしました。

20年前に一緒に生活をしていた主人公の花もきっと監禁をされていた経験があるんだろうと思いながら読み進めていましたが、いい意味で期待を裏切られる展開となっていました。

主人公の花は家庭環境に恵まれていなかったため、突然現れた黄美子を頼りに2人で生活を始めていきます。その後、2人の少女も加わり、奇妙な共同生活が始まっていきますが、生きていくために稼がなくてはいけません。中卒の花に稼ぐ術があるわけがなく、次第に闇の商売に手を染めていき抜け出せなってしまいます。

犯罪を犯すのはダメだとわかっていながらも抜けられなくなってしまいます。それは生活のためではありますが、一緒に生活をしている黄美子と2人の少女との擬似家族生活を壊したくないという使命感が彼女の行動を止めることを阻んだと思います。

理想郷を思い描いていましたが、世の中、そこまで甘くはないということを痛感させられてしまうあたり、若気の至りということができるのではないでしょうか。

それでも犯罪に手を出すのはダメだろうとは思いますが…

600ページのうち、冒頭と最後の100ページくらいが現代の描写で、残り500ページ以上は20年前の奇妙な擬似家族生活が描かれています。1ページの文字数も多いですが、読みやすく、ストーリーもテンポ良く展開されていくので苦なく読み終えることができました。

残念ながら恋愛要素とスリリングな要素はありませんので、その要素を求めている方にはおススメしません、

ですが、常識では考えられないような奇妙な共同生活がなぜ始まり、どうしてその生活が終わってしまったのかというある種のミステリーを求めている方にはおもしろい本だと思います。

 

 

[読書感想]古野まほろ 新任シリーズ 文庫「新任警視(下)」感想レビュー

上巻に続き、古野まほろ「新任警視」下巻を読み終えました。


新任警視(下) (新潮文庫) [ 古野 まほろ ]

ページ数;523ページ

発行日;令和5年4月1日

下巻は、

 第4章;警備犯罪

 第5章;事件検挙

 第6章;更迭

 第7章;離任

 終章. ;人事異動

で構成されています。

上下巻を読んだ感想を一言で表現すると「ヒジョーに辛かった」です。

上巻の感想をご覧になっていない方はこちらをご覧ください。

kizukix.hatenablog.jp

この本は“読書が苦手な私“には非常にハードルが高いということを痛感させられました。

なぜなら、

①ページ数が多い

 上下巻で1,000ページ越え!

②文字数が多い

 びっしり文字が書かれているページが多い!

③専門用語が多い

 著者が元警察官(しかもキャリア警察官僚)であったため、聞き慣れない警察用語が多い!

④状況説明が多い

 上巻の感想でも書きましたが、状況説明が多いので集中力が続かない!

⑤ストーリー展開が遅い

 状況説明が多く描写が細かいため、なかなか話が進まなく、イライラする!

などなど。。。

残念ながら、私には十分に読みこなすことができませんでした。

あまりの状況説明の多さと話の展開の遅さに読み飛ばしてしまった部分も多々ありますし、途中で読むのを断念しようかとも思いました。

それくらいしんどく、気持ちも落ち込みながら読んでいました。

 

しか〜し

その暗い気持ちは「第6章;更迭」を読み始めたら一気に晴れました。

残り170ページからは今までの展開の遅さが嘘のようにスピーディーに物語が進みだします。

主人公である愛予県警察本部の公安課長の司馬逹のミッションは、カルト宗教団に殺された前任者の敵討ちとカルト宗教団の掃討です。

そのミッションが第6章以降に一気に達成されていきます。

その達成の仕方がすごく爽快ですし、「そうだったの〜!」と驚かされるところが多々あります。

そして、全ての伏線が回収されていきます。

読み飛ばしてしまったり、読み流してしまった部分もありましたが、それでも十分に伏線回収を楽しむことができました。

そして、私が気になっていたある女性との関係性についてですが、こちらの伏線ももちろんしっかりと回収していきます。こちらも「そうだったの〜」と思わず唸ってしまう展開です。

上巻と下巻の途中(合わせて800ページくらい)まで抱いていたモヤモヤな気持ちと何とも言えない不完全燃焼感は最終的には晴らすことができましたが、辛抱強い忍耐力と高度な読解能力を要する本であることには変わりないと思います。読書が苦手な方は覚悟を持って読んでください。その覚悟がない方は避けたほうが良いかもしれません。

ただ、警察、特に公安がターゲットを検挙するためには、まずは何でもいいので「事件化」する必要があるということを知りました。そのためにはどんな些細なことでも見落とさない徹底した捜査と諦めない気持ちが重要ですが、それは決して容易なことではなく、非常に難しいということは伝わってきました。

小説ではありますが、おそらく現実世界でも同様なんだろうというと想像できました。

 

最後に...

状況説明が多く描写が多いこの手の小説は、映像で表現したら絶対におもしろくなると確信しました。

是非ドラマ化か映画化をしてほしい!

 

[読書感想文]古野まほろ 文庫「新任警視(上)」感想レビュー

古野まほろ「新任警視」を読んでみました。

上下巻あるうちの上巻を読み終えたので感想を書きます。

ページ数;494ページ

発行日;令和5年4月1日

書店に行き、帯のコメントを見て「読んでみたい」と思いました。

 公安警察vs.カルト宗教

 元警察キャリアの著者による

 究極の警察ミステリ!!

主人公は東大法学部卒業のエリート司馬逹(シバトオル)25歳。

警察庁に入庁4年目で新たな勤務先への内示をもらう教場からスタートします。

彼は愛予県(おそらく愛媛県と思われる)警察本部の公安課の課長として着任します。

そして、着任直前、前任の公安課長が何者かに殺害されるという事件が起きます。

その犯人と疑われているのがカルト宗教団です。

そのカルト宗教団の総本山が愛予県にあるということで、彼は着任早々、殺害された前任者の敵討ちとカルト宗教団の総統という任務を課せられます。

ただ、上巻ではその事件の真相や解決に向けての進展は一切ありません。

494ページもありますが、

 序章. ;人事異動

 第1章;警察庁

 第2章;愛予県警察本部

 第3章;公安課長

の構成しかありません。

そして、それぞれの章では、状況説明が非常に多く、ストーリー展開がゆっくりです。

例えば、第2章の愛予警察本部の章では、彼が担当する公安課に存在する六つの各班の役割、構成人員、業務概要を今節丁寧に紹介している箇所があります。

これがこの後のストーリーにどれだけ影響をするのだと疑問に思いながら読みましたが、状況説明は、言うなれば教科書的な説明に近いので、正直、頭にはあまり入って来ませんでした。そして、あまりに進捗が遅いのと重要性を理解できなかったので、途中から読み飛ばし、読み流しをしてしまいました。

それでも物語の大筋には問題ないと信じています。

「信じています」と書いたのは、まだ下巻を読んでいないので全体感を完璧に把握できていないからです。

そうは言っても気になる部分はあります。

彼は妻帯者であり、奥様が妊娠中でありながらも特定の女性と関係を持っています。

そして、その女性の勤務先が愛予県の大学。

小説ならでは展開です。

この女性との今後の関係と進展については興味があります。

もちろん、物語の軸である(と信じていますが)カルト宗教団との争いと殺害された前任者の敵討ちの行く末は気になります。

その気持ちを下巻ではしっかりと晴らしてくれることを期待して下巻を読みたいと思います。

本来であれば、上下巻を読んで全てを把握した上で感想を書くべきか思いましたが、上巻を読んだ後の不完全燃焼感をしっかりと伝えた上で、下巻がどういった展開となり、私が気になっている部分を解消してくれるかを確かめ、次のブログでその結果を伝えたいと思い、敢えて、上巻だけの感想を書かせて頂きました。

是非、下巻の感想も楽しみに待っていてください。

遠越段「時代を超える!スラムダンク論語」内容・感想レビュー

井上雄彦氏の「スラムダンク

最近では映画化もされ、空前の大ヒットを記録しています。

連載終了から20年以上も経っているのに、人気は衰えるどころか高まっており、連載当時に読者ではなかった世代までもファンになっている現象が起きています。

そんな中、書店で発見したのが本著

遠越段

「時代を越える!スラムダンク論語

ページ数;295ページ

刊行日;2023年3月23日

私自身、連載当時は学生で、しかも自らもバスケットボールをしていたので漫画は何回も読みました。

セリフとシーンはバッチリ頭に入ってます。

英語の勉強をしようと思った時も、英語版を全巻購入し、英語の読解力強化のテキストとしても使っていました。

いつも思うのは、「何回読んでも飽きない」ということ。

もちろん映画も鑑賞しました。知っているストーリーなはずなのに手に汗握る展開に気持ちの高まりを抑えるのに苦労をしました。

 

もちろん作者の井上雄彦氏の演出や画力、ストーリー展開は素晴らしいのですが、本著では2500年前に書かれた『論語』と通じるものがあるから長年人気が衰えないのだと著者は主張しています。

論語』は約2500年前の哲学者孔子の教えを集めた書物です。

日本でも江戸時代以降に親しまれてきた書物で、徳川家康や幕末の志士たちも愛読していたと言います。

特徴は、読むたびに新しい理解や捉え方があると言われているところだそうです。

そして、「スラムダンク」を読んで何十回目かに『論語』の言葉が浮かび、実際に突き合わせていくと面白いほどにリンクする部分があり、「スラムダンク」をより深く理解することができたということで本著をまとめたようです。

  1.  FIRST CHAPTER      ;桜木第一
  2.  SECOND CHAPTER;三井第二
  3.  THIRD CHAPTER    ;流川第三
  4.  FOURTH CHAPTER;赤木第四
  5.  FIFTH CHAPTER     ;宮城第五
  6.  SIXTH CHAPTER    ;安西第六

の6部構成となっていて、

CHAPTER毎にその人にまつわるセリフが紹介されていきます。

その後にそれに紐づく『論語』が紹介されます。

そして、次ページでそのセリフが生まれた漫画のシーンの紹介と解説、『論語』との繋がりを著者の考察を交えて解説してくれています。

 

誰もが知ってる名セリフももちろん登場します。

いくつかご紹介します。

まずは

最後まで…希望を捨てちゃいかん あきらめたらそこで試合終了だよ

このセリフから連想される『論語』は 

冉求曰く、子の道を悦ばざるに非ず。力足らざるなり。子曰く、力足らざる者は、中道にして廃す。今汝は画れり。

次に、

安西先生…バスケがしたいです…

このセリフから連想される『論語』は

子曰く、過って改めざる、是を過ちと謂う

最後に、

左手はそえるだけ

このセリフから連想される『論語』は

子曰く、まことに仁に志せば、悪しきことなきなり

こんな感じで漫画のセリフと『論語』の原文が紹介されます。

原文を理解するのは難しいと思います。

安心してください、本中では分かりやすくちゃんと和訳されています。

気になる方は是非読んでみてください。

 

ひとつひとつのセリフに対する解説は短く、単発なものが多いのでスラスラと読めます。漫画のストーリーに沿って展開されていますので、スラムダンク好きにはたまらないと思います。

私もどんどんと読み進めることができ、2日間で読み終えることができました。

 

論語』に触れたのは中学生以来でした。

「子曰く」から始まることは覚えていましたが、それ以外はほとんど覚えていませんでした。

論語』の奥深さ、読む度に新たな発見があるということなので、これを機に『論語」に関する書籍も読んでみようと思います。

 

ここまで熱量高めでご紹介してきましたが、それは私が「スラムダンク」好きだからです。

なので、「スラムダンク」を今までに読んだことがない方、興味がない方には正直オススメしません。

私はこの本を読んで、もう一度「スラムダンク」を読みたくなりました(笑)


時代を超える!スラムダンク論語 [ 遠越 段 ]

 


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葉真中顕「ロストケア」感想レビュー

2023年3月24日から松山ケンイチさん、長澤まさみさん出演により映画上映された

葉真中顕氏原作の「ロストケア」


ロスト・ケア【電子書籍】[ 葉真中顕 ]

ページ数;378ページ

この本を読んだきっかけは、

映画の予告映像です。

 「なぜ彼は42人を殺したのか」のテロップ後、

 松山ケンイチさんが「僕は42人を救いました」と

 長澤まさみさんに静かに話します。

このシーンだけで原作を読んでみようと思いすぐに購入しました。

 

ストーリーは死刑判決が降る裁判から始まります。

被告は(映画では「松山ケンイチさん」原作では〈彼〉)は42人も殺害しています。

これだけ見ると死刑判決は当たり前のように感じますが、

〈彼〉には全く罪の意識はありません。

そして、「僕は42人を救いました」と語ります。

なぜ〈彼〉はこのように主張するのでしょうか?

 

ストーリーは現代の日本です。

主要な登場人物4〜5人の目線で物語は進んでいきます。

少子高齢化が社会問題となっている日本。

親が高齢になると発生するのが介護の問題。

一言で「介護」と言っても、国の制度で要支援、要介護に区分が分かれているように高齢者の症状によって国や自治体から受けられるサービスは違いますし、介護する側の家族構成や家庭環境も違います。また、経済的余裕の有無によっても介護をする環境は違ってきます。

施設に預けられる経済的余裕のある人を“安全地帯にいる人”
施設に預けられる経済的余裕がなく、在宅介護をしなくてはいけない人を“崖っぷちの人”として表現されています。

各登場人物が抱える介護の問題が物語の深さをさらに深めていきます。

そして、国の介護制度の使いにくさやそれを決めている政治家の姿勢にも言及しています。

この小説の中で起きている事件はフィクションですが、現代の社会問題を考えると、規模は大小あれどいつ起きてもおかしくない事柄だと感じました。

小説を読んで、現実世界の社会課題について考えさせられたのは初めての経験でした。

 

物語にはキリスト教の聖書にかかわる部分も登場します。

本中に何度も

「人にしてもらいたいと思うことは何でも、あなたがたも人にしなさい」

という聖書の一節が登場します。

この言葉が非常に奥深い意味を持っています。

何も考えずに読むと、いい言葉だ、肝に銘じておこうと思いますが、

置かれている生活環境によっては、犯罪に繋がってしまう可能性のある一説であることに気づかされます。

 

そこまで深く考えず、映画の予告映像だけで気軽な気持ちで読もうと思った本でしたが、いろいろなことを考えされられ、気分が少し落ちこむ作品でした。

ただ、〈彼〉が誰なのかはドキドキしながら読めます。

〈彼〉は映画では松山ケンイチさんでありますが、それが誰なのかを楽しみながら、推理しながら読むことができます。

原作ではギリギリまで正体はわかりません。

なので、そのスリルを味わいたい方は、映画を観る前に原作を読むことをおすすめします。

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雨穴「変な家」感想レビュー

日経新聞の広告欄で見つけました。

雨穴「変な家」


変な家 [ 雨穴 ]

ページ数;244ページ

全て会話調で書かれていて、なおかつ図面などが都度書かれているので非常に理解しやすく読みやすい構成となっているので、3時間ほどで読み終えることができました。

著者の雨穴氏は、インターネットを中心に活動する活動するホラー作家だそうです。

なるほど、確かにストーリーとしてはホラーな要素が多いと思います。

すでに40万部突破していて、映画化も決定しているそうです。

謎を解き明かしていくホラー小説です。

 

主人公はオカルト専門のフリーライターの筆者。

新しい家を探していた友人からの相談で物語はスタートします。

一枚の間取り図を見せられます。

見取り図

住宅事情に詳しくない筆者は知り合いの建築家(栗原)に相談します。

そして、栗原から「この間取り図にはちょっと違和感がある」と聞かされます。

皆さんはこの間取り図の違和感に気づきました?

 

違和感に気づいた筆者と栗原は妄想を働かせます。

妄想は殺人事件まで膨らみます。

最初は妄想の中だけの話でしたが、ある日、

左手がない遺体が発見される事件が起き...

謎の女性(柚希)も現れ... 

物語は一気に進んでいきます。

妄想癖のある筆者と栗原はさらに妄想を膨らませていきますが、

徐々に真相には近づいていきます。

 

ある家に古くから受け継がれている不可思議な“供養“

この呪縛に縛られた一族と子孫が悲劇に巻き込まれていきます。

真実にたどり着き、全てが明らかになりますが、

最後には家族への愛情からくる悲しい結末を迎えます。

 

ネタバレになりますので、これ以上の詳細は書けません。

謎の真実を知りたい方は是非購入して読んでみてください。

 

この本はタイトルが面白そうだったので、気軽な気持ちで読み始めました。

ただ突然、“殺人事件“に発展するあたりから気持ちを引き締めて読まなくてはと切り替えました。

少し突拍子もない展開であることは否めませんが、

そこは小説ということで楽しみながらワクワクしながら読みました。

読み終わった後の気持ちは「ど〜ん⤵️」といった感じです。

ホラー小説ではありますが、そこまでグロテスクな描写はないので大丈夫です。

映画化も楽しみですね。


変な家 [ 雨穴 ]

【2023年最新刊】東野圭吾「魔女と過ごした7日間」感想レビュー

書店に平積みされていました。

2023年3月27日刊行の東野圭吾氏の最新刊です。

記念すべき100作目だそうです。

ラプラスの魔女」シリーズです。

ラプラスの魔女」は映画化もされていますね。

映画も観たことありますし、本も読んだことがあり、非常に面白かったので今回も期待して購入しました。

東野圭吾「魔女と過ごした7日間」


魔女と過ごした七日間 [ 東野 圭吾 ]

ページ数:410ページ

まとまった時間を取れなかったので、読み終えるのに6日間ほどかかりましたが、読みやすく展開もスピーディーで、最後までハラハラし通しでした。

 

物語は、一人の男性の死からスタートします。

その死の謎と犯人を探し出すのは、謎の女性と殺された男性の息子(中学3年生)とその友人です。

この謎の女性が特殊な能力を発揮します。

そうです、この女性が“ラプラスの魔女"です。

彼女の特殊な能力では、あらゆる現象が、次にどうなるのか、どうすれば自分の思い通りの結果を導き出せるのか、ということを瞬時に予測することができます。

"ラプラス"とは数学の確率の分野の「二項分布の正規近似についての定理」だそうです。

私には全く理解できませんが、世の中で起きている事象にはいろいろな要件が複雑に絡み合っていて、それぞれに○○係数、××係数があり、それを計算式に当てはめて計算すると確率論的に一定の結果が導き出せるということだと解釈をしました。

 

本著にも、

閉まりかけたエレベーターの扉に遠くからボールを転がして挟んだり、ビリヤードのナインボールで一回で全ての球をポケットに落とす技を見せたり、カジノのルーレットで狙った数字に球を落とす芸当を見せているシーンがあります。

これは全てラプラス定理により導き出されているんだと思います。

なぜ「思います」なのかというと、本文にはその説明は一切書かれていないからです。なので、登場人物も彼女がなぜそのようは芸当をできるのかは理解できず、それは最後まで解説もされません。

 

ラプラスの魔女」にはその説明がしっかりと書かれています。

私は「ラプラスの魔女」に書かれていた内容(解説)を思い出しながら、本著を私なりに解釈しました。

 

謎を解明していく過程で、警察の闇も浮き彫りになります。

警察として隠しておきたいこと、世間に公表できないことなど、ドラマや小説でよく描かれる警察上層部、国家権力の思惑的な類です。

マイナンバーカード(本著ではIDナンバーカードと表現していますが)もポイントです。

(現実社会でもマイナンバーカードの普及を推進されていますが)国民の情報を国が収集している真の目的は...

是非、購入して確かめてください。

中学3年生の息子と友人の活躍にも注目です。

彼らの活躍もあり、犯人逮捕と事件の全容は解明されますが、「犯人はこの人だったのかぁ」と驚かされます。

 

ラプラスの魔女」を事前に読んでおいた方がより理解が深まるかもしれません。

興味のある方は是非下記からご購入ください。

 


ラプラスの魔女(1) (角川文庫) [ 東野 圭吾 ]

 

最後に、私のお気に入りの文章をご紹介します。

謎の女性の不思議な能力に対して刑事が「トリックなのか?」と質問した時に

「すべての出来事を自分の理解できる範囲に収めてしまおうとするのは強引だし、傲慢です。そんな狭小な世界観から解き放たれた時、人間は初めて次のステージに一歩踏み出せるんです」

と謎の女性は答えます。

人はどうしても自分の価値観や知っている範囲で物事を判断、理解してしまいがちです。多様性が叫ばれる昨今では尚のこと自分だけの判断基準ではなく、幅広く、柔軟な考え方をする癖をつけ、信じられないことでも受け入れられる姿勢をもつことが大切だなぁと気付かされました。