東野圭吾『ある閉ざされた雪の山荘で』感想&あらすじ
『ある閉ざされた雪の山荘で』
著者 ;東野圭吾
発行日 ;1996年1月15日 第1刷発行
2023年9月15日 第101刷発行
ページ数;292ページ
読了日 ;2023年10月24日
【評価】
● 文字数 ★☆☆☆☆
● 読みやすさ★★★★☆
● スリルさ ★★★★☆
● 恋愛要素 ★☆☆☆☆
● スピード感★★★☆☆
【あらすじ】 ※ネタバレなし
演出家である東郷陣平氏の次回作品のオーディションに合格した役者の男女7人が、ある山荘に集められた。笠原温子、元村由梨江、中西貴子、本多雄一、雨宮京介、田所義雄の6人は東郷陣平の劇団『 水滸』所属、久我和幸は別の劇団に所属する役者である。なぜこの7人がこの山荘に集められたのか。それは数日前に届いた東郷陣平からの一通の手紙によるものだった。
次回作品の出演者諸君へ。
芝居完成のため、特別な打合せをとりおこないたい。その日程は以下の通り。
場所 乗鞍高原×××× ペンション四季(中略)
※部外者はもちろん、他の劇団員や事務員にも口外せぬこと。また内容に関する質問は一切受け付けない。理由の如何に関わらず、集合に遅れ者、欠席した者は参加を認めない。またオーディションの合格を取り消す。
何も知らされていない7人は、山荘には自分たちしかおらず、食事などは自分たちで用意しなくてはいけない事実を知る。途方に暮れていたその時、一通の速達が届く。差出人は東郷陣平。そこには今回集められた主旨が書かれていた。
その手紙によると「今回の作品はまだ完成していなく、この7人で作り上げていくものであり、ここはその舞台稽古場である」と記されていた。
そして、状況設定も事細かく記されていた。
●ここは人里から遠く離れ山荘であり、7人はその山荘を訪れた客人である
●7人の客人はこの山荘で予想外のアクシデントに遭遇する
●外は記録的な大雪で外との行き来は不可能な状態である
●雪の重みで電話線が切れ、電話も使えない状況である
●雪は依然として降り続け、救助は来ない以上の設定の下、今後起きる出来事に対処していってほしい。それが今回の作品の一部となり、脚本や演出に反映されることにな るので、是非とも全力で頑張ってもらいたい。
追伸 現実には電話は使用可能だが、使った場合はオーディション合格を即刻取り消す。
これが東郷陣平からの指示であった。
事情を完璧には呑み込めない7人だが、芝居のためにこの山荘で4日間過ごさなくてはいけない。
どんなアクシデントが起きるのかもわからない中、1日目は終了した。
迎えた2日目の朝、一人が姿を消した。いなくなった場所には1枚の紙きれが・・・。
〇〇〇〇(実際には名前が記載されている)の死体について。(中略)この紙を見つけた者を、死体の第一発見者とする
果たしてこれはお芝居なのか、それとも現実なのか。半信半疑の残された6人は、2日目は犯人を特定する手がかりを探す。そして、お互いを牽制しながら過ごしていく。
そして、3日目の朝、また一人姿を消した。そして、いなくなった場所にはまた1枚の紙きれが・・・。
△△△△(実際には名前が記載されている)の死体について。(中略)前回同様、この紙を見つけた者を、死体の第一発見者とする。死体の前頭部には鈍器による打撃の痕、首には手で絞めた痕が残っている
2日目同様、犯人特定の捜索を始めた5人は、凶器とみられる血の付いた鈍器を発見する。
いよいよ現実なのではないかと思い始めた5人。ただ、芝居である可能性も捨てきれないため、電話使用による合格取消しを恐れ、電話を使用することを躊躇する。
そして、最終日の4日目の朝を迎える。今回は5人共に無事であった。しかし、突然の睡魔に襲われ、起きたときにはまたまた一人消えていた。
確実に現実であり、事件であると確信し、山荘を出て警察に連絡をしようとしたが、唯一、この一連の出来事の真相に辿り着いていた人物がいた。その者が探偵さながらに今回の一連の出来事を解明していく。
果たして、一連の騒動は、本当にお芝居なのか、それとも事件として本当に殺されてしまったのか。そして、誰が何のためにこんなことをしたのか。
【感想】
読んでいる時はモヤモヤ感満載ですが、最後にはそのモヤモヤは全て晴れます。ただ、不思議な設定で物語が進んでいくため、状況を理解するのと頭の中を整理しながら読み進めていくのに少し苦労しました。山荘での出来事は、お芝居の設定ということになっていますが、実際には人が次々と消えていきます。常に「どういうことだ?」と頭の中で自身に問いかけながら読んでいきました。ですが、登場人物が限られていること、場面設定が山荘だけであり行動範囲も限定的であること、1日目、2日目、3日目、4日目が各章で区切られているので「あれ、これってどういうことだっけ?」と思ったときに容易に読み返せるのは私にはとてもありがたかったです。
私が感じた本作のおもしろポイントは、各章ごとに設定されている【久我和幸の独白】という項目でしょうか。そこだけはなぜか久我和幸視点で物語が進んでいきます。なので、主語が「俺」になります。この独白以外の部分では1人称は出てきません。となると、誰視点で物語が進んでいるんだ?と不思議に思い、モヤモヤ感が助長されます。もちろんこれも最後には解決されますのでご安心ください。
さて、この小説は2024年1月12日に重岡大毅さん主演で映画公開されるようです。山荘での不可思議な設定の中で、お芝居と現実との狭間で繰り広げられる7人の物語。映画を観るのも良し、原作を読むのも良し。きっとどちらも満足度は高いはずです。