読書が苦手な私が読んだ本

私は読書が苦手です。そんな私でも読めた本をご紹介します。実際に本を読んでもらいたいのでネタバレはしないように心掛けています。このブログを読んで「読んでみよう」と思う人が1人でも増えたら嬉しいです。

東野圭吾『ある閉ざされた雪の山荘で』感想&あらすじ

『ある閉ざされた雪の山荘で』

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著者  ;東野圭吾

発行日 ;1996年1月15日 第1刷発行

     2023年9月15日 第101刷発行

ページ数;292ページ

読了日 ;2023年10月24日

【評価】

● 文字数  ☆☆☆☆

● 読みやすさ★★★★

● スリルさ ★★★★

● 恋愛要素 ☆☆☆☆

● スピード感★★★☆☆

【あらすじ】 ※ネタバレなし

演出家である東郷陣平氏の次回作品のオーディションに合格した役者の男女7人が、ある山荘に集められた。笠原温子、元村由梨江、中西貴子、本多雄一、雨宮京介、田所義雄の6人は東郷陣平の劇団『 水滸』所属、久我和幸は別の劇団に所属する役者である。なぜこの7人がこの山荘に集められたのか。それは数日前に届いた東郷陣平からの一通の手紙によるものだった。

次回作品の出演者諸君へ。
芝居完成のため、特別な打合せをとりおこないたい。その日程は以下の通り。
場所 乗鞍高原×××× ペンション四季(中略)
※部外者はもちろん、他の劇団員や事務員にも口外せぬこと。また内容に関する質問は一切受け付けない。理由の如何に関わらず、集合に遅れ者、欠席した者は参加を認めない。またオーディションの合格を取り消す。

何も知らされていない7人は、山荘には自分たちしかおらず、食事などは自分たちで用意しなくてはいけない事実を知る。途方に暮れていたその時、一通の速達が届く。差出人は東郷陣平。そこには今回集められた主旨が書かれていた。
その手紙によると「今回の作品はまだ完成していなく、この7人で作り上げていくものであり、ここはその舞台稽古場である」と記されていた。
そして、状況設定も事細かく記されていた。

●ここは人里から遠く離れ山荘であり、7人はその山荘を訪れた客人である
●7人の客人はこの山荘で予想外のアクシデントに遭遇する
●外は記録的な大雪で外との行き来は不可能な状態である
●雪の重みで電話線が切れ、電話も使えない状況である
●雪は依然として降り続け、救助は来ない

以上の設定の下、今後起きる出来事に対処していってほしい。それが今回の作品の一部となり、脚本や演出に反映されることにな るので、是非とも全力で頑張ってもらいたい。

追伸 現実には電話は使用可能だが、使った場合はオーディション合格を即刻取り消す。

これが東郷陣平からの指示であった。
事情を完璧には呑み込めない7人だが、芝居のためにこの山荘で4日間過ごさなくてはいけない。

どんなアクシデントが起きるのかもわからない中、1日目は終了した。

迎えた2日目の朝、一人が姿を消した。いなくなった場所には1枚の紙きれが・・・。

〇〇〇〇(実際には名前が記載されている)の死体について。(中略)この紙を見つけた者を、死体の第一発見者とする

果たしてこれはお芝居なのか、それとも現実なのか。半信半疑の残された6人は、2日目は犯人を特定する手がかりを探す。そして、お互いを牽制しながら過ごしていく。
そして、3日目の朝、また一人姿を消した。そして、いなくなった場所にはまた1枚の紙きれが・・・。

△△△△(実際には名前が記載されている)の死体について。(中略)前回同様、この紙を見つけた者を、死体の第一発見者とする。死体の前頭部には鈍器による打撃の痕、首には手で絞めた痕が残っている

2日目同様、犯人特定の捜索を始めた5人は、凶器とみられる血の付いた鈍器を発見する。
いよいよ現実なのではないかと思い始めた5人。ただ、芝居である可能性も捨てきれないため、電話使用による合格取消しを恐れ、電話を使用することを躊躇する。
そして、最終日の4日目の朝を迎える。今回は5人共に無事であった。しかし、突然の睡魔に襲われ、起きたときにはまたまた一人消えていた。
確実に現実であり、事件であると確信し、山荘を出て警察に連絡をしようとしたが、唯一、この一連の出来事の真相に辿り着いていた人物がいた。その者が探偵さながらに今回の一連の出来事を解明していく。
果たして、一連の騒動は、本当にお芝居なのか、それとも事件として本当に殺されてしまったのか。そして、誰が何のためにこんなことをしたのか。

【感想】

読んでいる時はモヤモヤ感満載ですが、最後にはそのモヤモヤは全て晴れます。ただ、不思議な設定で物語が進んでいくため、状況を理解するのと頭の中を整理しながら読み進めていくのに少し苦労しました。山荘での出来事は、お芝居の設定ということになっていますが、実際には人が次々と消えていきます。常に「どういうことだ?」と頭の中で自身に問いかけながら読んでいきました。ですが、登場人物が限られていること、場面設定が山荘だけであり行動範囲も限定的であること、1日目、2日目、3日目、4日目が各章で区切られているので「あれ、これってどういうことだっけ?」と思ったときに容易に読み返せるのは私にはとてもありがたかったです。

私が感じた本作のおもしろポイントは、各章ごとに設定されている【久我和幸の独白】という項目でしょうか。そこだけはなぜか久我和幸視点で物語が進んでいきます。なので、主語が「俺」になります。この独白以外の部分では1人称は出てきません。となると、誰視点で物語が進んでいるんだ?と不思議に思い、モヤモヤ感が助長されます。もちろんこれも最後には解決されますのでご安心ください。

さて、この小説は2024年1月12日に重岡大毅さん主演で映画公開されるようです。山荘での不可思議な設定の中で、お芝居と現実との狭間で繰り広げられる7人の物語。映画を観るのも良し、原作を読むのも良し。きっとどちらも満足度は高いはずです。

伊坂幸太郎「777 トリプルセブン」あらすじ&感想

『777 トリプルセブン』

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著者  ;伊坂幸太郎

発行日 ;2023年9月21日 初版発行

ページ数;291ページ

読了日 ;2023年10月17日

【評価】

● 文字数  ★★☆☆☆

● 読みやすさ★★☆☆☆

● スリルさ ★★★★★

● 恋愛要素 ☆☆☆☆☆

● スピード感★★★★

【あらすじ】 ※ネタバレなし

舞台は超高級ホテルのウィントンパレスホテル。殺し屋の“七尾“( 通称:天道虫)は“真莉亜” からの依頼でこのホテルの一室にプレゼントを届ける仕事を引き受けた。今回の仕事は簡単かつ安全な仕事であるはずだったが、届けた部屋にプレゼントを受け取るはずの人物とは別の人物がいて、思わずその男を殺害してしまった。一方、ある部屋では、“乾“ と呼ばれる男に追われ、このホテルに潜んでいた” 紙野結花“が逃がし屋の異名を持ち、有能なハッカーである” ココ“に依頼し、ホテルからの脱出方法を模索している。 また、乾から紙野結花を捕まえる依頼を受けた男女”六人組“ がウィントンパレスホテルに到着し、防犯カメラ映像を頼りに紙野結花が潜んでいる部屋番号を探し当て、彼女を捕まえに手分けして部屋に向かっている。更に、紙野結花のボディーガードをココから依頼された”高良“と” 奏田“がホテルに潜伏しココと合流するのを待っていた。そして、2階のレストランでは、情報局の長官で元政治家の”蓬実篤“ が新聞記者の”池尾充“と食事をしながら取材を受けている。このあと、このホテルでは必然、偶然問わず様々な殺害行為が実行される。そして、死体の片付けをするのが、またまた乾から依頼を受けた”マクラ“ と”モウフ“の二人である。

逃げる紙野結花とココ、追いかける六人組。仕事を終えた七尾は依頼主の真莉亜に急用を伝えるためにホテルから出ようとし ていたが、ひょんなことから紙野結花を助けなければいけなくなってしまった 。やることなすことすべてが裏目に出てしまい、不運に見舞われ、ことごとくツイていないのが七尾という男。ボディーガードの奏田とも合流するが、なぜか高良はいない。そうこうしているうちに、六人組の各々が武器の吹き矢で七尾と紙野結花を仕留めに次々と襲ってくる。七尾は格闘の末に次々と六人組を殺害していく。次から次へと死体が出来上がっていくが、その死体の中になぜか七尾が殺害したのではない人間も含まれている。このホテルにそれぞれ違った目的と思惑で集まった者たちが、自身の目的達成のために予想外の殺人を犯していく。

なぜ紙野結花は乾から追われているのか。

乾とはどんな人物なのか。

無事に紙野結花は脱出できるのか。

なぜこんなにもたくさんの死体が出来上がってしまうのか。

そして、この一連の殺害とは無関係に見える蓬実篤と池尾充とはどんな人物なのか。

このホテルでの出来事の本当の狙いとは何なのか。

複雑に絡み合った人間関係と背景が物語をスリリングに仕立て上げ る。

【感想】

最初は非常に読みにくいと感じました。登場人物の多さと場面転換の多さでストーリーを追っかけるのに必死でした。でも、途中からこの複雑に絡み合い、先行きが見通せなかった人間関係が鮮明になってくると一気にこの本の面白みが増していきました。ですので、本作を読むときには途中まで我慢をするという覚悟を決めてから読み始めてください。

さて、物語はある高級ホテル内で起こります。「業者」と呼ばれる裏の社会で活動する人間(組織の場合もありますが)が依頼主からの依頼によって、殺害を含めた数々の闇の仕事をこなしていきます。物語の主軸として展開していくのは、驚異の記憶力を持つ紙野結花の捜索です。捕まえるためにチームプレイで行動する六人組とシステムをハッキ ングして六人組から逃れようとする紙野結花とココの攻防はスリル満点。そこに、別の依頼でホテルにたまたま居合わせた殺し屋の七尾の不運さと一連の逃亡劇へ巻き込まれる様はある種の滑稽さも覚えます。

「●●号室」「△△号室」「■階」 など各章ごとに場面設定がされているのでわかりやすくはありますが、一方で「あれ、この部屋では何が起きていたっけ?」「この部屋には誰が潜んでいたんだっけ?」と記憶を遡るのが少し大変でした。でも、それを着実に思い出し、前後関係を理解することでこの本は更に面白くなると確信しました。

正直、人が殺されていく描写が多い、ゴールが見えてこない、タイトルの「777(トリプルセブン)」 の意味が分からないなど、モヤモヤ状態で読み進めなくてはいけませんでしたが、最後に待っていた大どんでん返しでその気持ちは一気に晴れました。

根気強く読める人は絶対に楽しめる1冊です。是非購読してみてください。

東野圭吾最新作『あなたが誰かを殺した』あらすじ・感想

『あなたが誰かを殺した』

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著者  ;東野圭吾

発行日 ;2023年9月21日 第1刷発行

ページ数;309ページ

読了日 ;2023年10月6日

【評価】

● 文字数  ☆☆☆☆

● 読みやすさ★★★★★

● スリルさ ★★★★

● 恋愛要素 ☆☆☆☆☆

● スピード感★★★★★

【あらすじ】 ※ネタバレなし

山之内静枝、鷲尾春那、鷲尾英輔の山之内家。栗原正則、栗原由美子、栗原朋香の栗原家。櫻木洋一、櫻木千鶴、櫻木理恵、的場雅也の櫻木家。高塚俊策、高塚桂子、小坂均、小坂七海、小坂海斗の高塚家。8月のある日、この4家族15人が別荘地に集まった。各々の別荘地が近所ということもあり、毎年、BBQパーティーが開かれることになっていた。

山之内静枝は鷲尾春那の叔母、鷲尾英輔とは夫婦である。栗原朋香は正則と由美子の娘であり、年齢は14歳の中学3年生。櫻木洋一は総合病院の医院長であり、的場雅也は娘の理恵の婚約者。高塚俊策はいくつかの会社を経営しており、小坂均は俊策の下で働いている。BBQパーティーのメンバーは固定なわけではなく、誰かが誰かを連れてきたりすることもあるので初対面の人も存在する。今年のパーティーもつつがなく終了したが、その晩、鷲尾英輔、栗原正則、栗原由美子、櫻木洋一、高塚桂子が何者かに殺害され、的場雅也が刺されるという事件は起こった。一晩で5人が殺害され 、1人が重傷を負った事件の犯人捜しは難航するかに見えたが、別荘地の近くにある「鶴屋ホテル」 のレストランでディナーを食べていた男性が、自分が犯人であると自供し逮捕された。名前は桧川大志。桧川は死刑になりたいがために誰でもいいので殺害をしたと供述している。犯人逮捕により事件は解決したかに見えたが、なぜ自分の身内が殺害されなくてはいけなかったのかの真相を知りたいという遺族たちが独自で事件の究明をすることになった。集まった場所は、犯人が最後の晩餐をしていた「鶴屋ホテル」。1〜2名なら誰かを連れて来てもいいというルールが敷かれ、鷲尾春那は加賀恭一郎を同行されることにした。加賀恭一郎は警視庁捜査1課に所属する刑事で今は休暇中であった。「鶴屋ホテル」に集まった遺族たちによる事件究明の話し合いが開始される。

果たして、遺族は事件の真相にたどり着くことはできるのか?

桧川の真の狙いとは何だったのか?

桧川は本当に誰でもいいから殺害をしたのか?

一連の事件に見えていない裏の真相は存在しないのか?

この会の進行を任されたのは加賀刑事。加賀刑事の洞察力と推理力が冴える。遺族の人間性や過去や背景、遺族同士の関係性などの情報を聞き出し、矛盾点を整理し、鋭い仮説からをたて立証することで事件の真相に迫っていく。

【感想】

加賀シリーズの最新刊のようです。東野圭吾ワールド全開の作品で最後までワクワクが止まらない1冊でした。登場人物が多いので、最初のうちは関係性を理解するのに少し苦労しましたが、ひとつひとつ確認しながら読み進めていくうちに苦ではなくなりました。殺人事件が発生し、すぐに犯人が逮捕されてしまうという普通の展開とは少し違った切り口での始まりです。もしかして、この小説は犯人探しのストーリーではないのかもと考え、きっと別の切り口でのストーリー展開なんだろうと考えながら読んでいましたが、その予想を遥かに上回る展開と結末でした。ネタバレになるので詳細は書けませんが、犯人は別にも存在します。そしてその犯人は・・・。何気なく集まった4家族15名の知られざる過去や人間性も巧みに表現されていて、それがひとつずつ明らかになっていくときの気分の高揚感は半端ないです。そして、最後には大どんでん返しもあり、思わず「え!そうだったの???」と心の中で叫んでしまったほどです。本当に最後までドキドキしっぱなしでした。毎度のことながら、加賀恭一郎の冷静さと洞察力も冴えまくっています。加賀恭一郎シリーズが好きな人には堪らない1冊のはずです。加賀恭一郎シリーズを読んだことがない人でも次から次へと明らかになっていく事件の真相をスピード感持って楽しめますので、純粋に推理小説、ミステリーが好きな方にもおすすめの1冊です。ぜひ購読してみてください。

真保裕一「おまえの罪を自白しろ」あらすじ&感想

『おまえの罪を自白しろ』

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著者  ;真保裕一

発行日 ;2022年5月10日 第1刷

     2023年9月5日 第5刷

ページ数;372ページ

読了日;2023年9月28日

【評価】

● 文字数  ★★☆☆☆

● 読みやすさ★★★★

● スリルさ ★★★★★

● 恋愛要素 ☆☆☆☆☆

● スピード感★★★★★

【あらすじ】 ※ネタバレなし

現役の衆議院議員である宇田清治郎の孫娘が誘拐された。宇田清治郎は建設省官僚を経て、埼玉15区選出の衆議院議員となり、現在は6期目である。宇田家は、清治郎の妻の父の代から国会議員を務めており、清治郎は婿養子となり宇田家を継いでいる。清治郎には、子供が3 人おり、長男の揚一郎は埼玉県議で子供は2人。 長女の真由美は、緒形恒之と結婚し、3歳の娘(柚葉)がいる。 緒形恒之は埼玉県戸畑市の市会議員。 宇田清治郎の後継を狙って真由美に近づき結婚したが、宇田の姓を名乗ることは許されていない。次男の名は宇田晄司。政治家一家(特に父親)に反発し、家を飛び出し自らの会社を興すが、仲間に裏切られて倒産。今は清治郎の秘書を務めており、5か月が経っている。

そんなある日、真由美の娘であり、晄司の姪である柚葉が誘拐された。真由美と柚葉が近所の公園で遊んだ帰り道、 何者かに襲われて柚葉だけさらわれてしまった。

犯人からは以下の要求がきた。

宇田清治郎に告ぐ。我々の要求は金銭ではない。孫娘の命を救いたければ、明日午後五時までに記者会見を開き、おまえの罪を包み隠さず自白しろ。今までの政治家として犯してきたすべての罪を、だ。

犯人の狙いは柚葉の両親ではなく、祖父で衆議院議員の宇田清治郎であることが判明した。 清治郎には、建設省官僚であったためか今までも地元の公共事業の推進に関してたくさんの疑惑があったが、いまだに明るみにでた事案はなく、警察もすべてを解明できていない。過去にも捜査のメスが入ったことはあるが真実まで到達することはできなかった。すべてを知っているのは清治郎のみ。誘拐事件の解決に奔走する刑事(警察)。姪の柚葉を救うことに奔走する晄司。晄司は父の清治郎に罪を自白することを迫る。

果たして、清治郎はすべての罪を自白するのか。

果たして、孫の柚葉は無事に救出されるのか。

果たして、犯人の真の狙いは何なのか。

果たして、無事に犯人は捕まるのか。

【感想】

政治家のスキャンダルと誘拐事件というダブルのミステリーで展開されるストーリーです。宇田清治郎が今までに犯してきた罪について、所属する政党、内閣総理大臣官房長官、幹事長などと駆け引きをしながら、どこまで自白すべきなのか、誰を(何を)守らなくていけないのかをリアルに描写しています。犯人からの要求の記者会見まで24時間を切っている中、様々な人の思惑が交錯していきます。3歳の少女の命を救うことを第一優先にしなくてはいけないことは全員がわかっているものの、自身を保身することを捨てきれずに決断ができない人、保身のために誰を切り捨てるかを真剣に悩む人、実際の政治の世界でも同様なことが起きているんだろうなと感じられるストーリー展開でハラハラドキドキが止まりませんでした。著者の真意はわかりませんが、読書を進めていく中で、私は、この政治家間での駆け引きが安倍元総理の“森友問題“や“加計問題“の構図に近いなと感じました。本作中に登場する内閣総理大臣の名が安川泰平で「安」の字が使われているのも影響しているかもしれませんが。なので余計に作中の政治問題がわかりやすく、入り込みやすかったのかもしれません。本作は政治家のスキャンダルと誘拐事件というダブルのミステリーですが、大半がスキャンダル部分で構成されてい流のは事実です、ですが、最後には誘拐事件の真相も明らかになりますので安心して読んでください。

本作は、2023年10月20日、主演中島健人さん、堤真一さんで映画化されるようです。残されている時間が24時間を切っている中で、誘拐された少女を救い出すために何を選択し、何を諦めなくてはいけないのか、この緊迫感がどのように映画の中で表現されるのかが楽しみです。映画を観るのも良し、映画を観る前に原作を読むのも良し。いずれにしろスリルを味わえること間違いなしです。

杉井光『世界でいちばん透きとおった物語』あらすじ&感想

『世界でいちばん透きとおった物語』

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著者  ;杉井光

発行日 ;2023年5月1日 発行

     2023年9月15日 第12刷

ページ数;233ページ

読了日 ;2023年9月22日

【評価】

● 文字数  ★★☆☆☆

● 読みやすさ★★★★★

● スリルさ ☆☆☆☆☆

● 恋愛要素 ☆☆☆☆☆

● スピード感☆☆☆☆

【あらすじ】 ※ネタバレなし

主人公は藤阪燈真。母親の恵美と2人で暮らしている。恵美はフリーランスの校正者で、燈真も母親の仕事を手伝っている。燈真の父親は宮内彰吾(本名;松方朋泰)という有名なベストセラー推理作家である。宮内彰吾には妻子がおり、燈真は恵美と宮内彰吾の不倫の末に生まれた子供である。母親の恵美からその事実と一切の援助(養育費等)は受けていなく、連絡もとっていない、つまり認知もされていないということは知らされていた。なので、燈真も宮内彰吾に会ったことも彼が書いた小説も読んだこともなく、宮内彰吾への思い入れもない。そんなある日、恵美が交通事故で亡くなってしまった。そして、母の死から2年が過ぎた頃、ネットニュースで父親の宮内彰吾が癌で亡くなったことを知る。今まで会ったことも思い入れもないので特に気に留めていなかったが、宮内将吾の訃報の1ヶ月後、宮内彰吾の死について話があるということで実子である松方朋晃と名乗る人物から突然連絡が入った。朋晃は宮内彰吾の遺品を整理していたところ、ひとつの封筒を発見した。その封筒には『世界でいちばん透きとおった物語』と書かれていたが中身は空っぽ。宮内彰吾の遺作に違いないと確信した朋晃は原稿を探すために思い当たる場所を探したが結局見つからず、最後の手段として燈真に連絡をしてきた。燈真はもちろん遺作のことなど全く知らない。原稿が存在するのかどうかも定かではないが、結局、燈真は原稿探しを引き受けてしまう。

原稿を探すため、生前、宮内彰吾と接点があった人物への聞き込みを開始するが、宮内彰吾は無類の女好きで不倫相手がたくさんいた。話を聞く相手のほとんどがその不倫相手であった。宮内彰吾の話を聞けば聞くほど、自分の父親がいかに人間のクズであるかということを確信してしまい幻滅してします。ただ、「世界でいちばん透きとおった物語」の情報は着々と集まってきてしまう。葛藤がありながも原稿の在処を突き止めるために奔走する燈真。果たして、宮内彰吾の遺作『世界でいちばん透きとおった物語』は見つかるのか?

この一連の捜索活動では、母の恵美の仕事のパートナーであった深町霧子という編集者が燈真の原稿探しを手伝っている。燈真が聞いてきた情報をもとに、霧子は、なぜ宮内彰吾が『世界でいちばん透きとおった物語』という小説を書き上げようとしていたのかの謎を解明していく。そして、この作品が実は普通の小説ではないことを突き止める。この小説に込めたメッセージと宮内彰吾が後世に残したかったことを霧子は推理して解明していく。その事実を聞いた燈真。父親の宮内彰吾のクズさを悉く知ってしまった彼は、果たしてどういう行動を起こすのか?

【感想】

帯の

電子書籍化絶対不可能!?

“紙の本しか“体験できない感動がある!

というメッセージに惹かれて購入しました。なので、常にこのことを考えながら読み進めていきました。最後まで読むとこのメッセージの意味はもちろんわかります。そして、それが○○愛であるがゆえであることも理解できます(○○はネタバレになってしまうので敢えて書きません)。

さて、構成は非常にわかりやすく、全部で13章に分かれています。時系列で物語は進んでいき、1章ごとに場面転換をするので読書が苦手な私でも苦なく読むことができました。また、タイトルの『世界でいちばん好きとおった物語』が意味するのはどういったことなのか、「世界でいちばん透きとおった」とは真逆である宮内彰吾の人間としてのクズさ、ダークさが、最終的にはどうなるんだということを常に考えながら読んでいたので、あっという間に読み終わってしまいました。そして、「そういうことだったのか!」と読み終わった後の爽快感は格別でした。また、執筆の工夫に「すごい!確かにそうだ」と何回も読み返して確認をしてしまいました。ストーリーだけではなく、執筆するときの細工も素晴らしいと感じる1冊でした。興味のある方は是非、購読をしてみてください。

『自衛隊の闇組織 秘密情報部隊「別班」の正体』感想

自衛隊の闇組織

 秘密情報部隊「別班」の正体』

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著者  :石井暁

発行日 :2018年10月16日 第一刷発行

     2023年8月29日 第十二刷発行

ページ数:196ページ

読了日 :2023年9月13日

【感想】

今、話題のTBS日曜劇場「VIVANT」

そこに登場する謎の組織「別班」に関する取材記録です。共同通信社の記者でもある著者が5年半にわたる取材で自衛隊の闇組織を解明していきます。私は「VIVANT」を観るまで「別班」というのを見聞きしたことがありませんでした。知らないからこそ書店でこの本を見つけたときに、迷うことなく読んでみようと思い購入しました。

この本は、2018年に刊行されていますが、「別班」に関する記事が出たのが2013年11月28日なので、実際の取材時期はその前後かと推察します。

読んだ感想としては、 真相についてはやはりわからないんだということです。

著者は数多くの自衛隊関係者に取材をしていますが、明確に「 別班」のことを語ってくれた人はほぼいないようです。しかも首相や防衛大臣にも「別班」の存在は知らされていない模様です。なので、公式に「別班」 の存在を認めている人間はいないということ。ただ、海外での諜報活動を中心とした極秘任務を遂行している別班員が存在しているのはほぼ確実のようです。

映画みたいな非現実的なことがあり得るのか、許されるのかと興奮気味に思いましたが、政治家や世間に知らせて公式に存在を認めてしまうと、ルール(法律)に縛られ活動が制限されてしまい、それによって、かえって日本国が危険にさらされるリスクが高まるから公にしない、頑なに認めない、という考え方が背景にはあるのだいうことに少し納得してしまいました。秘密裏に活動しなくてはいけないからこそ「別班」 が闇の組織と言われる所以であるということも理解しました。本著では、 残念ながら現役の別班員へのインタビューはできなかったと記されています。話を聞けたのは陸上自衛隊の上層部や元別班員だけでしたので、この取材時点で「別班」なる組織が存在しているという確たる証言を取ることができなかったようです。しかもこの組織には米軍が絡んでいる可能性もあるということで、なおさら興奮してしまいます。別班員になるための面接試験の内容、 別班員は自衛隊時代の情報はすべて消去されるなど、ドラマで表現されていた事案も記されていました。

別班とは過酷な組織であると著者は記しています。著者が元別班員に会ったとき、彼らは“普通ではない”眼、 相手の心の中を透視でもするかのような“冷徹” な眼をしている印象を持ったということです。別班員になるための教育も、いかにも“洗脳”というに相応しい、 非人間的な教育であり、途中で脱落したり、 精神が崩壊してしまう人間も少なくなかったようです。

本著の最後の方に、複数の証言者の発言が列挙されています。

私にはその内容が衝撃的であり、「別班」という得体のしれない組織の全体像を知るためには、わかりやすい部分であったのでここで紹介したいと思います。

■心理戦防護過程は、完全な洗脳教育だった

■心理戦防護過程以降、妻子に対しても、心の中で壁を作ってしまう

■喜怒哀楽など、 自分の感情を完全にコントロールできるようになってしまった

■絶対に素の自分は表に出せない。それがストレスで、 休日は家族に噓を言って漫画喫茶に行って、ひとりでぼんやりしている

■心理戦防護過程から、親友がいなくなった。人生を変えられてしまった。

■心理戦防護過程の教育を受けた結果 ①洗脳される ②何も感じなくなる ③壊れる の3タイプの人がいる

■別班員は自分の本性を出さない。一種の精神的な病気だ

■別班生活は、精神的にやられるか、どっぷりはまるかのどちらかだ

■別班は人をだまして情報を取る。違法なことを含めて

■本来とは違う自分をいかにつくるか。そして、それを相手にどう信じ込ませるか

■ 自分は必要な相手からは百パーセント情報が取れるテクニックがある

■どんな時でも、自然な笑顔をつくれる。人間として寂しい

防衛省が「別班が現在も過去も存在しない」と言ったときはショックだった

■国は別班の存在を認めて、海外でも活動できるような体制をつくるべきだ。今、別班がやっている活動は茶番だ

■別班の存在を国が認めなければ、ろくでもない情報しか取れない

■何かあればトカゲのしっぽ切りだろう。 私たちは何で別班の仕事をしてきたかわからない

■自分に何かあったとき、家族はどうなるのか常に心配だった

■別班という組織の全貌を明るみに出して、潰してほしい。そして、国が正式に認めた正しい組織をつくってほしい

ドラマでは表現されていない「別班」の真の姿は、 この本の中で垣間見ることができるかもしれません。

興味を持った方は是非購読してください。

溱かなえ『カケラ』感想

『カケラ』

著者  ;湊かなえ

発行日 ;2023年1月25日第1刷

     2023年7月19日第4刷

ページ数;312ページ(解説込み)

読了日 ;2023年9月4日

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【評価】

● 文字数  ★★☆☆☆

● 読みやすさ☆☆☆☆

● スリルさ ☆☆☆☆☆

● 恋愛要素 ☆☆☆☆☆

● スピード感☆☆☆☆

【あらすじ】 ※ネタバレなし

美容クリニックの院長である橘久乃は、ある少女の自殺のことを知った。その少女の名前は吉良有羽。 大量のドーナツに囲まれて死んでいたという。幼馴染の結城志保のカウンセリングをしている最中に知った有羽の自殺。そして、その少女の母親は横網八重子。久乃と志保の同級生だった。久乃は八重子と有羽に関係のある人物に話を聞いていき、なぜ有羽は自らの命を絶たなくてはいけなかったのかの真相を探っていくこと決心をする。しかし・・・

話聞いたのは、久乃の同級生の結城志保。有羽の同級生だった如月アミ。久乃の元カレで八重子の同級生だった堀口弦多。有羽の同級生で堀口弦多の息子の星夜。有羽とアミの中学の担任の先生で結城志保の妹の希恵。有羽の高校の担任で有羽が高校を辞めた原因とされている柴山登紀 子。そして、横網八重子。

なぜ吉良有羽は自殺してしまったのか。関係者の話を聞いても、人によって言っていることと有羽や母親の八重子に対する印象や思い出がことごとく違う。共通しているのは有羽は太っていたということ。それは、母親からドーナツしか食べさせてもらえていなかったからだと、ある意味での虐待を受けていたと。そして、それが苦で命を絶ったのだと。しかし、それは話を聞いた人の勝手な憶測と思い込み、決めつけでしかない。

実は、橘久乃は自殺した吉良有羽とも面識があった。実は、彼女は「痩せたい」ということで久乃の美容クリニックを訪れていた。そして、カウンセリングの中で、なぜ彼女が「痩せたい」と思ったのかの心の内を久乃に語っている。どうして痩せなければならなかったのか、どうして自殺をしなくてはいけなかったのか。母親から虐待は受けていたのか。太っていることが原因なのか。

その真相はいかに・ ・・

【感想】

非常に集中力を要する本でした。プロローグに始まり、全7章があり、エピローグで構成されています。7章の各章で語り手が異なります。主人公の橘久乃に語りかけている設定で物語が進行していき、まるでクリニックに訪れている患者のカウンセリングをしているかのような状況です(実際に、クリニックでカウンセリングをしている設定の章もありますが)。各章の語り手視点でのおしゃべりが主軸であり、久乃が言葉を発することはありません。主語は常に「私」とか「僕」、「オレ」で進んでいくので、途中まで「これは誰がしゃべっているんだ?」と頭に疑問符を浮かべながら読まなくてはいけません。しかも話が脱線しまくりです。話があっち行ったり、こっち行ったり。。。最終的には元に戻ってくるんですが、この点でも神経を使わなくてはいけない作品でした。巻末の解説でも書かれていましたが、美容整形クリニックに訪れる患者というのがまさにこういうことだそうです。一方的に話し、話が脱線し、何を話したいのかわからなくなって、それを医師が軌道修正をしていく。本作の進行はまさにそんな感じでした。

さて、作品の中身ですが、自殺した少女とその母親に対する各人の印象や思いが語られていきます。人それぞれ思っていることが違うのは当たり前ですが、印象的だったのが、その思い込みを全員が正当化し、そうに違いないと決めつけている点です。太っている=悪いと決めつけて、そしてそうなった原因が母親であると決めつけている。

エピローグに

一つ憶えて置いてほしいのは、自分の理想の形が必ずしも他人のとってもそうではないということ

というフレーズがあります。著者が本作で伝えたかったことはこれなんじゃないかと思いました。実はこのフレーズを読むまで、本作を少し推理小説っぽく読んでいました。「自殺に追い込んだ犯人は誰だ!」といった感じで。でも、違ったみたいです。

このフレーズが意味することを知りたい方は是非読んでみてください。推理小説ではないのでくれぐれもご注意を。

ビートたけし原作小説「アナログ」あらすじ&感想

『アナログ』

著者  ;ビートたけし

発行日 ;2023年6月25日第1刷

     *2017年9月に書き下ろし単行本として刊行されました。

ページ数;184ページ

読了日 ;2023年8月25日

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【評価】

● 文字数  ☆☆☆☆

● 読みやすさ★★★★★

● スリルさ ☆☆☆☆

● 恋愛要素 ★★★★★

● スピード感☆☆☆☆

【あらすじ】 *ネタバレなし

主人公の水島悟はインテリアデザイナーです。日頃、無理難題を押し付け、手柄を独り占めする上司への不満と幼少期から女手ひとつで育ててくれ、今病床に伏して入院している母の見舞いを繰り返している生活を送っています。

ある日、自身が手がけた喫茶店『ピアノ』を訪れた際、ひとりの女性と出会います。名前は「みゆき」。不思議なオーラを纏った謎に包まれたみゆきに興味を持った悟は彼女に声をかけ、そして、物腰が柔らかく、上品な雰囲気を醸し出すみゆきに一気に惹かれていきます。

悟はすぐにでも連絡先を聞きたかったが、連絡先を聞いたら二度と会えなくなるような気がして、

「今度またお会いしたら声をかけてもよろしいですか?」

とみゆきに尋ねると、彼女からは

「私、休みが木曜日なので、何もなければ夕方ですけど、よくここに来ていますよ」

という返事が返ってきます

そして、次の木曜日もピアノに向かうと、彼女はそこにいました。日々、仕事と母親のお見舞いで忙殺されていた悟にとって、みゆきとのひとときは癒しの時間でした。彼女の連絡先を聞き出そうとしますが、なぜかそれには消極的なみゆき。

それを察した悟は

「お互いの名前だけわかっていれば、携帯とかメールなんて知らない方が、余計なことで連絡をとったり、用もないのにメールしなきゃと思うより、いいんじゃないですか?」

と苦し紛れに本心ではないことを言うと、みゆきからは

「そういうのステキですよね。あまり意味のないメールのやり取りや電話をするより次はいつ会えるかなって楽しみにする方が」

と返ってきます。

それによりお互いの連絡先を知ることなく、唯一の会える手段が毎週木曜に喫茶店『ピアノ』だけという関係になりました。

それからの悟は、毎週木曜日にピアノでみゆきに会えるのを楽しみに日々を過ごします。仕事の調整も母親のお見舞いも友人との約束も全て木曜日にピアノにいくことを中心に考えるようになります。会えるかどうかという不安と会えた時の喜び、会ったときの癒しの時間がみゆきに対する気持ちを際限なく高めていきます。そんな時、悟に大阪支社への転勤が命じられます。このままではみゆきに会えなくなってしまうと考えた悟は、次の木曜日にプロポーズすることを決意します。指輪も購入し、いよいよプロポーズをする木曜日。いつもより少し早い時間に到着してみゆきを待っていますが、みゆきは現れません。次の木曜日もその次の木曜日も悟はピアノに行きますが、みゆきが現れることはありませんでした。結局、みゆきには会えず、プロポーズもできずに悟は大阪に転勤してしまいます。気持ちが吹っ切れない状態で大阪での生活をしていく中で、ふとしたことからみゆきに関する情報を入手します。突然ピアノに現れなくなった彼女には実は秘密がありました。その秘密を知った悟はどうするのか。果たして、悟とみゆきの運命はどうなっていくのか。

【感想】

まず最初に、ビートたけし氏の原作モノは初めてでした。映画も観たことがなく小説も読んだことがありませんでしたが、日頃、テレビで見ている彼からは想像もできないくらいの純粋な恋愛小説でした。なんでも便利になったデジタル社会に慣れてしまい、その時代の潮流に流されてしまっている私たちに一石を投じてきたなと感じる作品でした。今ならすぐにスマホで連絡先を交換し、いつでもどこでも連絡が取れます。約束が曖昧な状況でも困りません。便利な状態が今では当たり前ですが、以前はそんなことなかったんですよね。連絡手段が乏しかった時代には、会う約束は「何日の何時にどこで」とお互いに確認しあわないと約束が果たせませんでした。どちらかが約束を忘れていたり、間違っていると連絡する手段も限られていた時代でした。ふと、学生時代に新宿駅の構内アナウンスで呼びされたことを思い出しました。

この作品では、まさにデジタルに頼らないアナログを大切にしたストーリーです。"すぐに連絡できない" "すぐに会えない" "次に会えるのが待ち遠しい" 本来、人の感情というのはこうあるべきなのかもしれないと考えさせられる作品です。非常に切なくはありますが、このドキドキ感はきっと他では得られない快感なんだろうと思います。

現代は、便利になったがために時間に追われ、ヒトに追われ、ついつい他人の目を気にしてしまいがちです。スマホの電源を1日切って手放してみるのが良いということも聞きます。なかなか難しいですが、本来の自分の感情や感性を思い出すには効果的かもしれませんね。

この小説は2023年10月6日に主演二宮和也さん、ヒロイン波瑠さんで映画化されるようです。映画を観るのもよし、小説を読むのも良し。切ないラブストーリーとアナログの良さを感じてください。

東野圭吾 文庫「私が彼を殺した」あらすじ&感想レビュー

私が彼を殺した新装版

著者  ;東野圭吾

発行日 ;2023年7月14日 第1刷発行

ページ数;431ページ

読了日 ;2023年8月18日

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【評価】

● 文字量  ★★★☆☆

● 読みやすさ★★★★★

● スリルさ ★★★★

● 恋愛要素 ★★☆☆☆

● スピード感★★★★

【あらすじ】 ※ネタバレなし

主な登場人物は、神林貴弘と神林美和子の兄妹。神林美和子の結婚相手の穂高誠。穂高誠の事務所で穂高のマネージャー的な存在の駿河直之。そして、詩人の神林美和子の編集担当の雪笹香織の5人。

神林貴弘と神林美和子は幼い頃に交通事故で両親を亡くしている。残された貴弘と美和子はそれぞれ違う親戚のもとで育てられ、15年ぶりに同居することになった。そして美和子は脚本家である穂高誠との結婚式を数日後に控えている。この兄妹は両親を亡くし離れて暮らしていたので、仲は良いが、その関係性と感情は普通の兄妹とは少し違っていた。その異様な感情により、神林貴弘は美和子と穂高誠との結婚を歓迎していない。

穂高誠は女性関係が腐っている。結婚式前日、神林兄妹、穂高誠、駿河直之、雪笹香織が穂高誠の自宅で集まっていた際、庭にひとりの女性(浪岡準子)が現れる。準子はかつて穂高誠と付き合っており、穂高との間できた子を堕胎させられている。捨てられた彼女は、ある決意をしてその場に現れた。そして、その場を収めたのが駿河直之である。彼の説得で一旦は事は収まったが、後にレストランで皆で会食をしていて不在だった穂高誠の家の庭で彼女が自殺してしまった。その事実を隠蔽することを決意した穂高誠は、駿河直之とともに彼女の遺体を彼女の自宅に運び込み、自宅で自殺したように細工する。そして、穂高との関係はなく、準子は駿河直之と関係があり、今回の自殺の原因を駿河直之に押し付けてしまう。

駿河直之はかつて車のタイヤを作る会社の経理を担当していた。ギャンブルによる借金から会社の金を横領してしまう。そのピンチを救ってくれたのが大学時代に同じサークル仲間だった穂高誠である。彼の事務所で働くようになったが、穂高には一切逆らえない。彼の公私による横暴を食い止めることもできずに、いつも後始末は駿河直之の役目。穂高に対する悪の感情が少しずつ貯まっていった時に起こったのが浪岡準子の自殺。実は浪岡準子は駿河直之が紹介した女性であり、しかも駿河が密かに想いを寄せていた女性だった。そして、自殺の後始末と責任を押し付けられたときに穂高誠への感情が臨界点に達した。

雪笹香織は、神林美和子の詩人としての才能を見抜き、詩集を出版した。かつて穂高誠の担当でもあった香織は、密かに穂高誠と付き合っていた。そして、彼女も穂高との間でできた子を堕胎しており、捨てられた。そんな過去があるにも関わらず、ある時、穂高から神林美和子を紹介してほしいという依頼を受けて、美和子を穂高に紹介した。そして、二人は付き合うようになり、結婚することになった。

そんな複雑な感情と過去が背景にあるが、結婚式は当日を迎え、事件が起きます。教会に入場してきた穂高誠が突然倒れてその場で絶命した。明らかに誰かによる殺害である。穂高の日頃の言動から彼に恨みを持っている人間は数多くいるが、結婚式という閉鎖的空間での死ということで容疑者は神林貴弘、駿河直之、雪笹香織に限られてくる。彼らには穂高誠殺害の動機がある。そして、この事件の担当になったのが練馬署の加賀恭一郎である。持ち前の洞察力と行動力で犯人を追い詰めていきます。最後は容疑者3人と神林美和子が穂高誠の自宅に集められ、事件の真相を明かしていきます。果たして穂高誠を殺害した犯人は誰なのか?

【感想】

加賀恭一郎シリーズです。本書は1999年2月にノベルスとして刊行され、2000年3月に文庫に収録されたものの新装版です。今から20年以上前の作品ですね。

非常に惹き込まれるストーリーでした。異常な兄妹愛から始まり、非現実的ではあるが、だからこそ読者はのめり込むんだと思いました。ページ数は多かったですが、私はこの東野圭吾の術にまんまとハマり、一気に読んでしまいました。

本書は、章ごとに目線が変わります。「神林貴弘の章」では神林貴弘の視点で物語が進行し、思考や感情も神林貴弘のものとして描かれています。同じように「駿河直之の章」「雪笹香織の章」もあり、それぞれの章で主役が変わるといった感じで構成されています。主語が変わることで、同じシチュエーションなのに感じ方や見ている視点が違うことがこの本を楽しむポイントのひとつかもしれません。そして、途中でばら撒かれている犯人特定のカギにより、「こいつが犯人かぁ」と想像しながら読み進めていきますが、そのカギは複数あり、「あれ、もしかしらこっちが犯人?いや、こっちかもしれないな」と思考が乱されます。でも、そこもおもしろいポイントのひとつです。今までに何冊か小説を読んできましたが、私の中ではトップ3に入るくらいおもしろい1冊でした。まだ読んでいない人は、是非、読んでみてください。

東野圭吾 文庫「どちらかが彼女を殺した」新装版 感想レビュー

どちらかが彼女を殺した新装版

著者  ;東野圭吾

発行日 ;2023年6月15日 第1刷発行

ページ数;355ページ

読了日 ;2023年8月12日

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【評価】

● 文字数  ★★★☆☆

● 読みやすさ★★★★★

● スリルさ ★★☆☆☆

● 恋愛要素 ★★☆☆☆

● スピード感★★★★

【あらすじ】  ※ネタバレなし

OLの和泉園子が自宅で亡くなっているのが発見された。第一発見者は唯一の肉親である兄の和泉康正。園子から康正に電話があり「お兄ちゃん以外、信じられなくなっちゃった」と告げ、それを最後に園子は死んだ。電話があったのは金曜日の夜。愛知県警で働いている康正は勤務明けの月曜日の朝、気になって園子が暮らす東京で出向き、園子の自宅でベッドに横たわって死んでいる園子を発見する。一見、自殺のように見える現場だが、警察官である康正はすぐにこれが他殺であると察知し、自分で犯人を見つけ出し復讐することを決意する。現場を自殺であると警察に信じ込ませるための細工を施したが、そこに疑問を抱いたのが、練馬署で勤務する刑事の加賀恭一郎。警察官でもある康正が巧妙に仕組んだ現場の微かな違和感を洞察力の鋭い加賀は見逃さなかった。

園子は誰に殺されたのか。園子には親しくしていた人物が2人いた。ひとりはお付き合いをしていた佃潤一。もうひとりは親友の弓場佳世子。しかし、佃潤一は園子と別れて弓場佳世子と付き合っていた。その事実を突き止めた康正は犯人をこの2名と確信して証拠を集めていく。一方、この事件には康正が何かを隠していると直感している加賀は執拗に康正を追い続ける。殺害現場を自殺現場にすり替え、自ら復習を果たそうとしている和泉康正と、その事実と康正の狙いを直感で確信している加賀との心理戦が繰り広げられる。

果たして、どちらが和泉園子を殺害したのか。

康正は復習を果たせるのか。

それとも加賀が全ての事実を明らかにし、康正の復習を阻止できるのか。

【感想】

非常に切ない気持ちにあるお話です。和泉康正は唯一の肉親であり、妹想いであるため、妹の園子の死に直面した時のショックは相当なものだったと想像できます。そして、犯人が捕まるだけでは足りず、自ら復習をするという決意は想像に難くありません。本作のおもしろポイントは2つあります。ひとつは、容疑者候補の2人のアリバイを崩していく過程です。そしてもうひとつは、被害者の兄である和泉康正と刑事である加賀恭一郎とのやり取りです。康正は交通課勤務ではありますが、両者が警察関係者であるということから、お互いの手の内と狙いを探り合いながらストーリーが展開していくのは読み応え満点です。物語の後半から、康正と加賀のお互いの推理合戦が展開されます。お互いが持っている情報から立てた仮説を披露していきます。この推理合戦の勝者を想像しながら読むのもおもしろいかもしれません。最後は展開に展開を重ねて終了します。表の裏は裏、裏の裏は表。しっかりと読み込まないと少しこんがらがるかもしれませんので気合い入れて読みましょう。

本作は東野圭吾氏の「加賀シリーズ」として展開されている小説のようです。本書は1999年5月に文庫に収録されたものの新装版ですので、書かれたのは今から20年以上前になりますね。先日、ブログをアップした「希望の糸」にも加賀恭一郎が登場します。「希望の糸」では加賀は警察署の上層部にいて、主に活躍していたのは従兄弟であり部下の刑事でしたので、加賀はどちらかと言えば脇役でした。ですが、本作では加賀はまだ若く20代で、彼が主役で活躍します。鋭い洞察力と情熱がこもった捜査、康正の復習を阻止するために奔走する姿は「希望の糸」では見ることができなかった一面ですので、合わせて読むと良いかもしれません。

東野圭吾 文庫「希望の糸」感想 - 読書が苦手な私が読んだ本