読書が苦手な私が読んだ本

私は読書が苦手です。そんな私でも読めた本をご紹介します。実際に本を読んでもらいたいのでネタバレはしないように心掛けています。このブログを読んで「読んでみよう」と思う人が1人でも増えたら嬉しいです。

朝井リョウ「正欲」あらすじ&感想

「正欲」

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著者  ;朝井リョウ

発行日 ;2023年6月1日

ページ数;498ページ

読了日 ;2023年6月18日

【評価】

● 文字数  ★★☆☆☆

● 状況説明量☆☆☆☆

● 読みやすさ★★★★★

● スリルさ ★★☆☆☆

● 恋愛要素 ★★☆☆☆

● スピード感★★☆☆☆

【あらすじ】

主に3人の登場人物の生活を中心に物語は進んでいきます。

1人目は不登校の小学生の息子をもつ検事寺井啓喜。2人目はショッピングモールの寝具店で働くOL桐生夏月。3人目は金沢八景大学に通う女子大生の神戸八重子。

寺井は不登校になってしまった小学生の息子の対処に悩んでいます。そんな息子がイベントで知り合った不登校の小学生と共にYouTubeを始めることになります。

ぼくたちはひとりひとり違うのに、同じ格好で同じ授業!バカみたい!

学校ってもう古くないですか?自分が興味あることを勉強した方が絶対にいい!

ぼくから見れば、みんな洗脳さているみたい。学校の勉強、社会出て、役に立つの?

この言葉が息子をYouTubeの世界に引き込んでいきますが、YouTubeを始めた息子は不登校で引きこもっていた時が嘘のようにイキイキとしてきます。妻の由美はそれが嬉しく、学校に行くことが全てではないと感じ始めます。しかし、普段、犯罪者(通常のルールから外れた人間)を相手に仕事をしている啓喜には受け入れ難いことです。自分の接している世界(=価値観)が正しいのか、妻や息子が主張する世界が正しいのかわからなくなってしまいます。

桐生夏月は人には打ち明けられない“欲“を持っています。それを悟られないように日々過ごしていますが、職場では自身のプライベートにズケズケと踏み込んでくる同僚に嫌気が刺しています。そんな時、中学校の同級生同士の結婚式兼同窓会で佐々木佳道に再会します。彼も夏月と同じ悩みを持っています。そんな2人が悩みを共有して行動生活(結婚)を始めていき、自身の“欲“を満たして行きます。

神部八重子は学園祭の実行委員として活躍しています。毎年恒例のミス・ミスターコンテストを廃止し、新たなに「ダイバーシティーフェス」を企画。大学内外の人たちを巻き込みながら“繋がり“をテーマにしたダイバーシティーフェスは大成功。自身も性についての悩み(男性の視線に耐えられない)を抱えている八重子ですが、ダンスサークルに所属している大橋大也に好意を持ちます。なぜか彼からの視線は大丈夫なのです。そんな彼も実は“欲“に対して悩みを抱えています。自分と同じような悩みを抱えている信じていた八重子は大也と積極的に関わろうとし、彼の悩みを一緒に解決しようと画策します。しかし、彼の悩みは違います。それなのにちょっかいを出してくる八重子に嫌気が刺してきます。

一見何の接点もないように見える3つのシチュエーションですが、ある共通の“欲“で繋がっていることが後々わかってきます。

その“欲“とはなんなのか?各人が抱えている悩みはちゃんと解決するのか?自分が想像できる多様性だけが正しいのか?最後まで目が離せません。

【感想】

一般的に「正しい」とか「間違っている」と認識されていることが本当にそうなのだろうか。それも誰かの主観で決められただけで、本当の「正しい」とは何なのだろうか?そんな疑問を投げかけてくれる1冊です。テーマは“多様性“です。まさに現代社会で話題になっているテーマです。登場人物の“欲“は一般的にはなかなか理解が難しい“欲“です。でも、これを受容するのも多様性なんだと気付かされます。「多様性」「ダイバーシティー」を頭では理解しているつもりでも、それは自分の経験や想像の範囲内でしかないとつくづく感じます。きっと私たちは世の中のことをほとんど知らないんです。その考えを前提にして生活をし、多種多様な人とコミュニケーションを取らないと多様性は理解できないんだろうと感じます。

本著は巧みな構成で描かれています。主に3つのシチュエーションで物語は進んでいきます。最初のうちはこの3つのシチュエーションがどのように絡み合っていくのかを不思議に思うのと同時に楽しみにしながら読み進めていきました。特に面白かったのは途中から登場する人物が、実は重要人物だということです。彼らの“欲“をどれだけ理解できるか、このような“欲“を持っている人が世の中にはいるんだということを知ること、それを共有できる“繋がり“を持った人同士の生き方や考え方を受け入れること、それが多様性を受容することなんだと感じます。

昨今、国会ではLGBT法が制定されました。でも、これも実は政治家の皆さんの常識の範囲や経験の範囲内でしか議論されず、決められた法律かもしれません。異論を唱えている当事者や関係者がいますもんね。自分の尺度だけで物事を考えたり、他人に押し付けたりせず、人は多種多様な価値観を持っていることを意識をすることが大切だと、この本を読んで感じました。多様性が叫ばれるこれからの世の中を生きていく上で、考えるきっかけをくれた本です。是非、読んでみてください。