東野圭吾 文庫「希望の糸」感想
『希望の糸』
著者 ;東野圭吾
発行日 ;2022年7月15日 第1刷発行
2023年3月15日 第9刷発行
ページ数;464ページ
読了日 ;2023年7月26日
【評価】
● 文字数 ★★☆☆☆
● 読みやすさ★★★★★
● スリルさ ★★★★☆
● 恋愛要素 ☆☆☆☆☆
● スピード感★★★★☆
【あらすじ】 ※ネタバレなし
自由が丘の喫茶店で1人の女性が殺害されました。被害者の名前は花塚弥生。年齢は51歳。そして、この事件の捜査を担当しているのが警視庁捜査一課の松宮修平。犯人を探すべく被害者に関わりのある人物に聞き込み調査を行いますが、全員が口を揃えて「あんな良い人はいない。殺されたなんて信じられない」と言います。花塚弥生には離婚歴があり、殺させる直前に元夫(綿貫哲彦)と会っていたことを突き止めます。また、最近、花塚弥生と親しい間柄と噂されている男性(汐見行伸)の存在も突き止めます。2人にも事情聴取をしましたが、手がかりになる供述を得る事ができません。
そんな頃、松宮の元に一本の連絡が入ります。連絡してきたのは石川県金沢市で旅館の女将をしている芳原亜矢子。亜矢子は「私の父は、あなたのお父さんかもれない」と突然告げます。2人に面識はありません。告げられた松宮は事情が全くわからず驚きます。末期癌で危篤の亜矢子の父の遺言書に「松宮修平が自分の息子であることを認知する」という内容が書かれていたのです。
一方、殺人事件の捜査では、1人の少女の存在が明らかになります。汐見行伸の中学生の娘(萌奈)です。実は汐見行伸には震災の犠牲になった娘と息子がいました。悲しみを忘れるために授かったのが人工授精で生まれた萌奈です。その後、萌奈を中心に事件の真相が明らかになっていきます。
果たして花塚弥生を殺した犯人は誰なのか
なぜ花塚弥生は殺されなければならなかったのか
父と名乗る男性は本当に松宮修平の父親なのか
その父親の意図することはなにか
『希望の糸』とはどう意味なのか
読めば全てがわかります。
【感想】
一言で表すなら「切ない」です。殺人事件について、誰が悪いというわけではない(実際にはいますが…)のに、登場人物全員が不幸になってしまうという負の連鎖が止まりません。
「あの時こうだったら…」
「あの時こうしていれば…」
「あの時知っていれば…」
と頭に思い浮かべながら読み進めました。最後まで悲しい気持ちが消えない作品です。
東野圭吾氏の作品でよくありますが、途中まで別々に進んでいるストーリーの接点が全く見えません。ただ、ある時交わります。その交わりを感じた時の爽快感はたまりませんね。モヤモヤが一気に晴れます。
さて、タイトルの『希望の糸』が意味するところはなんだと思いますか?本作では、希望の糸がつながっていた人、つながっていなかった人、それぞれが存在します。つながっていた人は幸福感を感じ、つながっていなかった人は不幸を味わいます。でも、その違いはちょっとしたことです。あの時の行動や決断如何によって幸福感を味わえる人と不幸を味わう人に分かれます。読後感として、全体的な気持ちは「切ない」のですが、人生の永遠の課題(運命・運勢とは何か?)を考えさせられる作品かと思います。是非、読んでみてください。