読書が苦手な私が読んだ本

私は読書が苦手です。そんな私でも読めた本をご紹介します。実際に本を読んでもらいたいのでネタバレはしないように心掛けています。このブログを読んで「読んでみよう」と思う人が1人でも増えたら嬉しいです。

浅倉秋成「六人の嘘つきな大学生」あらすじ&感想レビュー

『六人の嘘つきな大学生』

著者  ;浅倉秋成

発行日 ;2023年6月25日 初版発行

ページ数;349ページ

読了日 ;2023年7月6日

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【評価】

● 文字数  ★★☆☆☆

● 状況説明量★★☆☆☆

● 読みやすさ★★★★★

● スリルさ ★★★★

● 恋愛要素 ☆☆☆☆☆

● スピード感★★★☆☆

【あらすじ】

2011年、大学4年生六人がIT企業大手の株式会社スピラリンクスの採用試験の最終選考に残りました。最終選考の方法は1ヶ月後に予定されているグループディスカッション。

人事部長からは

議題は弊社が実際に抱えている案件と似たものを提示し、それを皆さんならどのように進めていくのか議論ーーーーーーというようなものにする予定です。

ディスカッションの出来によっては、六人全員に内定を出す可能性も十分にあります。

と伝えられます。

六人は全員が内定をもらえるように、1ヶ月間、勉強会や飲み会など事前の準備とお互いの人間性の理解、そして信頼関係を築き上げていきます。

しかし、最終選考直前になって人事部長から

(中略)今年度の採用枠は「一つ」にすべきという判断が下りました。これに伴い、当日のグループディスカッションの議題は「六人の中で誰が最も内定に相応しいか」を議論して頂く、というものに変更させて頂きます。そして議論の中で選出された一名に、当社としても正式に内容を出したいと考えています。

と突然の変更連絡が来ます。1ヶ月間、全員で内定を勝ち取るつもりで頑張ってきた仲間が急遽ライバルに変わってしまいます。

そして、最終選考当日を迎えます。制限時間は2時間半。人事担当者は一切介入せず、この六人だけで誰が相応しいかを決めていきます。すでにお互いの人間性や信頼関係が出来上がっているので最初は当たり障りのない議論からスタートします。ただ、30分ほど過ぎたあたりである封筒が置かれていることに気づきます。六人それぞれに宛てた封筒です。その封筒には各人の知られざる過去の悪行が記録されたデータが入っています。一人が開封することでその人の見えていなかった人間性が垣間見え、内定には相応しくないという印象を他の五人に与えてしまいます。他の封筒も開封するべだと主張する人と開封すべきでないと主張する人との議論がぶつかり合います。犯人は六人の中にいます。誰かが嘘の証言をしています。犯人は内定を勝ち取りたいのか、それとも別の目的を達成したいのか。。。。

【感想】

本作は2部構成になっています。第1部では、最終選考に残った六人がグループディスカッションによって内定に誰が相応しいかが決まるまでを描いています。第2部では、そこから8年後が描かれています。

最終選考の方法が変わることは現実的に、また道徳的にはあり得ないことではありますが、このやり方は採用試験の本質をついていると感心する部分でもあります。私自身も面接官を経験したことはありますが、短い時間でその人の本質を見抜くことはほぼ不可能だと感じていました。面接される側は自己アピールのために大なり小なり嘘をついていると思いますし、面接する企業側も自社のマイナスポイントを積極的にいうことありません。つまり、お互いが仮面を被った状態で面接をしているということです。なので、その人が本当に優秀な人材なのか、その人が当社に本当に相応しい人材なのかということなどわかるはずがないんです。その課題を解決する手法して本作で取り上げられている方法はアリだなと思いました。もちろん私は絶対に経験したくはないですが・・・。

さて、実際のグループディスカッションでは、思いのよらない展開が待っています。誰か(犯人)が用意した封筒にはひとりひとりの知られたくない過去が入っています。それを暴くことで知らなかったその人の本質も見えてきます。それをきっかけに六人の人間性と内定を勝ち取りたいという野心とが交錯し、築き上げてきた信頼関係が崩壊していきます。その様は見応えがあります。最終的には犯人は確定し、内定に相応しい人物も確定し、第1部は終了します。

第2部はそこから8年後です。語り手は内定者です。ふとしたことから8年前のグループディスカションの真相を知りたくなった内定者。当時の参加者に8年ぶりに再会し、採取選考日当日の様子をヒアリングしていきます。ネタバレになってしまうので詳細は書けませんが、内定者はあることがずっと気になっていました。第2部ではその気になっていたことを最終的に解明していきます。

本作のテーマは「人間の本質」ではないでしょうか。結局のところ、人の本質や資質を全て理解することはできません。よく知っている人でさえも見えている部分はその人の本質の一部でしかないということを語っているんだと思います。我々が見ている月は常に片面しか見られなく、裏側がどうなっているのかはわからないのに月というものを全て知った気になっている、ということを語っている部分があります。まさに人間も同じですね。私たちはその人の一部でもってその人のことを全て知った気になってしまいます。だから、「こんな人だとは思わなかった」と落胆することもありますし、「こんな一面もあるんだ」だと感心することもあるんだと思います。

ミステリーとしての面白さだけではない深い人間の本質をついた面白さと気づきを与えてくれる1冊でした。是非、読んでみてください。