「ゴリラ裁判の日」須藤古都離著 感想レビュー
須藤古都離「ゴリラ裁判の日」
ページ数;327ページ
発行日;2023年3月13日
読了日;2023年5月4日
【評価】
● ページ数 ★★★☆☆
● 文字数 ★★★☆☆
● 状況説明量★☆☆☆☆
● スリルさ ★★★★☆
● 恋愛要素 ☆☆☆☆☆
● スピード感★★★☆☆
【あらすじ】
アメリカで起きたある裁判のシーンから始まります。夫を射殺されたことに納得と正当性を感じない原告が動物園を相手に裁判を起こしますが結果は敗訴。
その原告が…
なんとメスゴリラ(ローズ)です。ローズは人間とコミュニケーションが取れる不思議なゴリラです。コミュニケーションだけではなく、思考や理解度も成人の人間と遜色ない存在です。
ローズはアフリカで生まれ、動物保護区で生活しています。なぜローズが人間とコミュニケーションが取れるようになったのかが描かれています。ただ、ローズはゴリラです。ゴリラとしての生活やゴリラの生態についての描写もしっかりと描かれています。動物保護区で生活をしていたローズですが、あることをきっかけにアメリカに行くことになります。アメリカでは動物園のゴリラパークで過ごしますが、ある日、ゴリラパークに遊びに来た母子の子供がゴリラパークの柵に中に誤って転落してしまいます。転落後、リーダーであるシルバーバック“オマリ“に捕まってしまった少年。少年の安全を第一に考えた動物園の判断はオマリの射殺でした。射殺されたオマリはローズの夫。人間の思考をもつローズはなぜ夫が射殺されなければいけなかったのか理解と納得ができません。そして、冒頭の裁判のシーンです。敗訴したローズは動物園ではなく、別の道に進みアメリカで生活を始めます。しかし、心の底では敗訴したことに納得ができていないローズ。なぜ夫は殺されなければいけなかったのか。動物の命は人間の命より優先されないのはなぜか。そんな時、再審をする機会を得ます。改めて、無罪を主張する動物園側との裁判がスタートします。どのような結末が待っているのでしょうか???
【感想】
「ゴリラ裁判の日」というタイトルを見た時にどんな話なんだろうと興味を持ちながら読み始めたら、まさかのゴリラが主人公でした!!!しかも人間とコミュニケーションが取れるという突拍子のない設定で、最初は頭の中で「これはどういうことか?」と疑問符が常にある状態でした。ローズは手話を使って人間とコミュニケーションを取ります。特殊なグローブにより音声も発することができるので、手話が理解できない人とも何不自由なく会話ができます。学習意欲の強いローズはテレビや映画なども視聴して人間世界のことを益々理解し、人間的思考も身につけていきます。やっぱり「これはどういうことだ?」と言う疑問符は消えません。
舞台がアメリカに移動し始めた頃から、この本の伝えたいメッセージが朧げなから予測することができるようになってきました。裁判に敗訴したローズが言った「正義は人間に支配されている」。この言葉がこの本のテーマだと思いました。オマリを射殺しなければ、少年がオマリに殺されていたかもしれない。でもオマリには少年を殺す意志はなかった。それでも射殺の判断をし、それが正義として判決が下った。動物の命と人間の命、どちらが大切な命なのでしょうか?命に優先順位をつけるべきではなく、平等であるべきだと言うのがこの本で伝えたいことなのではないでしょうか?ローズが人間と同じ意向と知能を持ち合わせるという少し奇妙な設定にすることで、動物側の主張を上手に描いたと思います。
主は動物の命と人間の命がテーマですが、見方を変えると人間の命と人間の命、すなわち人種別の命と置き換えることもできるのではないかと感じました。今の世の中は、ある人種が正義を支配している世界ではないでしょうか?著者がそこまで意識して執筆したかどうかはわかりませんが、私はそう感じました。
この小説はフィクションですが、人間と手話を通してコミュニケーションがとれたゴリラは実際に存在していたようです。また、ゴリラパークに転落してしまった少年を助けるためにゴリラを射殺したという事件も実際に起こったそうです。その事件で「人権とは何か?」という議論も起こったようです。
突拍子もない設定に最初は戸惑いましたが、非常に奥が深い考えされられる社会派の小説です。ストーリー自体は面白く描かれており、非常に読みやすくなっていますので、是非、読んでみてください。