『自衛隊の闇組織 秘密情報部隊「別班」の正体』感想
『自衛隊の闇組織
秘密情報部隊「別班」の正体』
著者 :石井暁
発行日 :2018年10月16日 第一刷発行
2023年8月29日 第十二刷発行
ページ数:196ページ
読了日 :2023年9月13日
【感想】
今、話題のTBS日曜劇場「VIVANT」。
そこに登場する謎の組織「別班」に関する取材記録です。共同通信社の記者でもある著者が5年半にわたる取材で自衛隊の闇組織を解明していきます。私は「VIVANT」を観るまで「別班」というのを見聞きしたことがありませんでした。知らないからこそ書店でこの本を見つけたときに、迷うことなく読んでみようと思い購入しました。
この本は、2018年に刊行されていますが、「別班」に関する記事が出たのが2013年11月28日なので、実際の取材時期はその前後かと推察します。
読んだ感想としては、 真相についてはやはりわからないんだということです。
著者は数多くの自衛隊関係者に取材をしていますが、明確に「 別班」のことを語ってくれた人はほぼいないようです。しかも首相や防衛大臣にも「別班」の存在は知らされていない模様です。なので、公式に「別班」 の存在を認めている人間はいないということ。ただ、海外での諜報活動を中心とした極秘任務を遂行している別班員が存在しているのはほぼ確実のようです。
映画みたいな非現実的なことがあり得るのか、許されるのかと興奮気味に思いましたが、政治家や世間に知らせて公式に存在を認めてしまうと、ルール(法律)に縛られ活動が制限されてしまい、それによって、かえって日本国が危険にさらされるリスクが高まるから公にしない、頑なに認めない、という考え方が背景にはあるのだいうことに少し納得してしまいました。秘密裏に活動しなくてはいけないからこそ「別班」 が闇の組織と言われる所以であるということも理解しました。本著では、 残念ながら現役の別班員へのインタビューはできなかったと記されています。話を聞けたのは陸上自衛隊の上層部や元別班員だけでしたので、この取材時点で「別班」なる組織が存在しているという確たる証言を取ることができなかったようです。しかもこの組織には米軍が絡んでいる可能性もあるということで、なおさら興奮してしまいます。別班員になるための面接試験の内容、 別班員は自衛隊時代の情報はすべて消去されるなど、ドラマで表現されていた事案も記されていました。
別班とは過酷な組織であると著者は記しています。著者が元別班員に会ったとき、彼らは“普通ではない”眼、 相手の心の中を透視でもするかのような“冷徹” な眼をしている印象を持ったということです。別班員になるための教育も、いかにも“洗脳”というに相応しい、 非人間的な教育であり、途中で脱落したり、 精神が崩壊してしまう人間も少なくなかったようです。
本著の最後の方に、複数の証言者の発言が列挙されています。
私にはその内容が衝撃的であり、「別班」という得体のしれない組織の全体像を知るためには、わかりやすい部分であったのでここで紹介したいと思います。
■心理戦防護過程は、完全な洗脳教育だった
■心理戦防護過程以降、妻子に対しても、心の中で壁を作ってしまう
■喜怒哀楽など、 自分の感情を完全にコントロールできるようになってしまった
■絶対に素の自分は表に出せない。それがストレスで、 休日は家族に噓を言って漫画喫茶に行って、ひとりでぼんやりしている
■心理戦防護過程から、親友がいなくなった。人生を変えられてしまった。
■心理戦防護過程の教育を受けた結果 ①洗脳される ②何も感じなくなる ③壊れる の3タイプの人がいる
■別班員は自分の本性を出さない。一種の精神的な病気だ
■別班生活は、精神的にやられるか、どっぷりはまるかのどちらかだ
■別班は人をだまして情報を取る。違法なことを含めて
■本来とは違う自分をいかにつくるか。そして、それを相手にどう信じ込ませるか
■ 自分は必要な相手からは百パーセント情報が取れるテクニックがある
■どんな時でも、自然な笑顔をつくれる。人間として寂しい
■防衛省が「別班が現在も過去も存在しない」と言ったときはショックだった
■国は別班の存在を認めて、海外でも活動できるような体制をつくるべきだ。今、別班がやっている活動は茶番だ
■別班の存在を国が認めなければ、ろくでもない情報しか取れない
■何かあればトカゲのしっぽ切りだろう。 私たちは何で別班の仕事をしてきたかわからない
■自分に何かあったとき、家族はどうなるのか常に心配だった
■別班という組織の全貌を明るみに出して、潰してほしい。そして、国が正式に認めた正しい組織をつくってほしい
ドラマでは表現されていない「別班」の真の姿は、 この本の中で垣間見ることができるかもしれません。
興味を持った方は是非購読してください。