読書が苦手な私が読んだ本

私は読書が苦手です。そんな私でも読めた本をご紹介します。実際に本を読んでもらいたいのでネタバレはしないように心掛けています。このブログを読んで「読んでみよう」と思う人が1人でも増えたら嬉しいです。

溱かなえ『カケラ』感想

『カケラ』

著者  ;湊かなえ

発行日 ;2023年1月25日第1刷

     2023年7月19日第4刷

ページ数;312ページ(解説込み)

読了日 ;2023年9月4日

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【評価】

● 文字数  ★★☆☆☆

● 読みやすさ☆☆☆☆

● スリルさ ☆☆☆☆☆

● 恋愛要素 ☆☆☆☆☆

● スピード感☆☆☆☆

【あらすじ】 ※ネタバレなし

美容クリニックの院長である橘久乃は、ある少女の自殺のことを知った。その少女の名前は吉良有羽。 大量のドーナツに囲まれて死んでいたという。幼馴染の結城志保のカウンセリングをしている最中に知った有羽の自殺。そして、その少女の母親は横網八重子。久乃と志保の同級生だった。久乃は八重子と有羽に関係のある人物に話を聞いていき、なぜ有羽は自らの命を絶たなくてはいけなかったのかの真相を探っていくこと決心をする。しかし・・・

話聞いたのは、久乃の同級生の結城志保。有羽の同級生だった如月アミ。久乃の元カレで八重子の同級生だった堀口弦多。有羽の同級生で堀口弦多の息子の星夜。有羽とアミの中学の担任の先生で結城志保の妹の希恵。有羽の高校の担任で有羽が高校を辞めた原因とされている柴山登紀 子。そして、横網八重子。

なぜ吉良有羽は自殺してしまったのか。関係者の話を聞いても、人によって言っていることと有羽や母親の八重子に対する印象や思い出がことごとく違う。共通しているのは有羽は太っていたということ。それは、母親からドーナツしか食べさせてもらえていなかったからだと、ある意味での虐待を受けていたと。そして、それが苦で命を絶ったのだと。しかし、それは話を聞いた人の勝手な憶測と思い込み、決めつけでしかない。

実は、橘久乃は自殺した吉良有羽とも面識があった。実は、彼女は「痩せたい」ということで久乃の美容クリニックを訪れていた。そして、カウンセリングの中で、なぜ彼女が「痩せたい」と思ったのかの心の内を久乃に語っている。どうして痩せなければならなかったのか、どうして自殺をしなくてはいけなかったのか。母親から虐待は受けていたのか。太っていることが原因なのか。

その真相はいかに・ ・・

【感想】

非常に集中力を要する本でした。プロローグに始まり、全7章があり、エピローグで構成されています。7章の各章で語り手が異なります。主人公の橘久乃に語りかけている設定で物語が進行していき、まるでクリニックに訪れている患者のカウンセリングをしているかのような状況です(実際に、クリニックでカウンセリングをしている設定の章もありますが)。各章の語り手視点でのおしゃべりが主軸であり、久乃が言葉を発することはありません。主語は常に「私」とか「僕」、「オレ」で進んでいくので、途中まで「これは誰がしゃべっているんだ?」と頭に疑問符を浮かべながら読まなくてはいけません。しかも話が脱線しまくりです。話があっち行ったり、こっち行ったり。。。最終的には元に戻ってくるんですが、この点でも神経を使わなくてはいけない作品でした。巻末の解説でも書かれていましたが、美容整形クリニックに訪れる患者というのがまさにこういうことだそうです。一方的に話し、話が脱線し、何を話したいのかわからなくなって、それを医師が軌道修正をしていく。本作の進行はまさにそんな感じでした。

さて、作品の中身ですが、自殺した少女とその母親に対する各人の印象や思いが語られていきます。人それぞれ思っていることが違うのは当たり前ですが、印象的だったのが、その思い込みを全員が正当化し、そうに違いないと決めつけている点です。太っている=悪いと決めつけて、そしてそうなった原因が母親であると決めつけている。

エピローグに

一つ憶えて置いてほしいのは、自分の理想の形が必ずしも他人のとってもそうではないということ

というフレーズがあります。著者が本作で伝えたかったことはこれなんじゃないかと思いました。実はこのフレーズを読むまで、本作を少し推理小説っぽく読んでいました。「自殺に追い込んだ犯人は誰だ!」といった感じで。でも、違ったみたいです。

このフレーズが意味することを知りたい方は是非読んでみてください。推理小説ではないのでくれぐれもご注意を。