読書が苦手な私が読んだ本

私は読書が苦手です。そんな私でも読めた本をご紹介します。実際に本を読んでもらいたいのでネタバレはしないように心掛けています。このブログを読んで「読んでみよう」と思う人が1人でも増えたら嬉しいです。

ビートたけし原作小説「アナログ」あらすじ&感想

『アナログ』

著者  ;ビートたけし

発行日 ;2023年6月25日第1刷

     *2017年9月に書き下ろし単行本として刊行されました。

ページ数;184ページ

読了日 ;2023年8月25日

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【評価】

● 文字数  ☆☆☆☆

● 読みやすさ★★★★★

● スリルさ ☆☆☆☆

● 恋愛要素 ★★★★★

● スピード感☆☆☆☆

【あらすじ】 *ネタバレなし

主人公の水島悟はインテリアデザイナーです。日頃、無理難題を押し付け、手柄を独り占めする上司への不満と幼少期から女手ひとつで育ててくれ、今病床に伏して入院している母の見舞いを繰り返している生活を送っています。

ある日、自身が手がけた喫茶店『ピアノ』を訪れた際、ひとりの女性と出会います。名前は「みゆき」。不思議なオーラを纏った謎に包まれたみゆきに興味を持った悟は彼女に声をかけ、そして、物腰が柔らかく、上品な雰囲気を醸し出すみゆきに一気に惹かれていきます。

悟はすぐにでも連絡先を聞きたかったが、連絡先を聞いたら二度と会えなくなるような気がして、

「今度またお会いしたら声をかけてもよろしいですか?」

とみゆきに尋ねると、彼女からは

「私、休みが木曜日なので、何もなければ夕方ですけど、よくここに来ていますよ」

という返事が返ってきます

そして、次の木曜日もピアノに向かうと、彼女はそこにいました。日々、仕事と母親のお見舞いで忙殺されていた悟にとって、みゆきとのひとときは癒しの時間でした。彼女の連絡先を聞き出そうとしますが、なぜかそれには消極的なみゆき。

それを察した悟は

「お互いの名前だけわかっていれば、携帯とかメールなんて知らない方が、余計なことで連絡をとったり、用もないのにメールしなきゃと思うより、いいんじゃないですか?」

と苦し紛れに本心ではないことを言うと、みゆきからは

「そういうのステキですよね。あまり意味のないメールのやり取りや電話をするより次はいつ会えるかなって楽しみにする方が」

と返ってきます。

それによりお互いの連絡先を知ることなく、唯一の会える手段が毎週木曜に喫茶店『ピアノ』だけという関係になりました。

それからの悟は、毎週木曜日にピアノでみゆきに会えるのを楽しみに日々を過ごします。仕事の調整も母親のお見舞いも友人との約束も全て木曜日にピアノにいくことを中心に考えるようになります。会えるかどうかという不安と会えた時の喜び、会ったときの癒しの時間がみゆきに対する気持ちを際限なく高めていきます。そんな時、悟に大阪支社への転勤が命じられます。このままではみゆきに会えなくなってしまうと考えた悟は、次の木曜日にプロポーズすることを決意します。指輪も購入し、いよいよプロポーズをする木曜日。いつもより少し早い時間に到着してみゆきを待っていますが、みゆきは現れません。次の木曜日もその次の木曜日も悟はピアノに行きますが、みゆきが現れることはありませんでした。結局、みゆきには会えず、プロポーズもできずに悟は大阪に転勤してしまいます。気持ちが吹っ切れない状態で大阪での生活をしていく中で、ふとしたことからみゆきに関する情報を入手します。突然ピアノに現れなくなった彼女には実は秘密がありました。その秘密を知った悟はどうするのか。果たして、悟とみゆきの運命はどうなっていくのか。

【感想】

まず最初に、ビートたけし氏の原作モノは初めてでした。映画も観たことがなく小説も読んだことがありませんでしたが、日頃、テレビで見ている彼からは想像もできないくらいの純粋な恋愛小説でした。なんでも便利になったデジタル社会に慣れてしまい、その時代の潮流に流されてしまっている私たちに一石を投じてきたなと感じる作品でした。今ならすぐにスマホで連絡先を交換し、いつでもどこでも連絡が取れます。約束が曖昧な状況でも困りません。便利な状態が今では当たり前ですが、以前はそんなことなかったんですよね。連絡手段が乏しかった時代には、会う約束は「何日の何時にどこで」とお互いに確認しあわないと約束が果たせませんでした。どちらかが約束を忘れていたり、間違っていると連絡する手段も限られていた時代でした。ふと、学生時代に新宿駅の構内アナウンスで呼びされたことを思い出しました。

この作品では、まさにデジタルに頼らないアナログを大切にしたストーリーです。"すぐに連絡できない" "すぐに会えない" "次に会えるのが待ち遠しい" 本来、人の感情というのはこうあるべきなのかもしれないと考えさせられる作品です。非常に切なくはありますが、このドキドキ感はきっと他では得られない快感なんだろうと思います。

現代は、便利になったがために時間に追われ、ヒトに追われ、ついつい他人の目を気にしてしまいがちです。スマホの電源を1日切って手放してみるのが良いということも聞きます。なかなか難しいですが、本来の自分の感情や感性を思い出すには効果的かもしれませんね。

この小説は2023年10月6日に主演二宮和也さん、ヒロイン波瑠さんで映画化されるようです。映画を観るのもよし、小説を読むのも良し。切ないラブストーリーとアナログの良さを感じてください。